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【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」

2015年3月15日 13:30

麻薬組織のボスたちを英雄として称える音楽=ナルコ・コリード

麻薬組織のボスたちを英雄として称える音楽=ナルコ・コリード
(C)Narco Cultura. LLC
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[映画.com ニュース] メキシコに「ナルコ・コリード」という音楽のジャンルがある。スペイン語のわからない私が聞くと、なんだか少し懐かしい感じの陽気なラテンミュージックにしか聞こえない。踊りたくなるほどだ。しかしナルコ・コリードは実はとても怖ろしい音楽だ。日本語に直訳すれば、「麻薬密売人のバラッド」。実在の麻薬組織のボスたちを題材にして、彼らを英雄としてあつかった語りの音楽なのだ。歌詞がすごい。

「手にはAK-47 肩にはバズーカ 邪魔する奴は頭を吹っ飛ばす 俺たちは血に飢えているんだ 殺しには目がないぜ」

ナルコ・コリードの歌手たちは特定の組織と親しくするため、敵対する組織から憎まれ、これまでたくさんの歌手が殺害されているという。何とも言えない話だ。おまけに反社会的すぎてメキシコ国内では放送禁止になっている。それでも人気者になれば大金が稼げるというので、ナルコ・コリードを歌う若者たちはたくさんいる。

この映画には、ふたりの主人公がいる。ひとりがナルコ・コリードで人気急上昇中の歌手、エドガーだ。エドガーはロサンゼルス生まれのメキシコ系アメリカ人で、インターネットでしかメキシコの麻薬組織のことを知らない。でも本場に憧れ、「スラングも何もかも本場がやっぱり凄いぜ」と、麻薬組織の本拠地を目指す。映画の中でエドガーのパートは、徹底的にハイテンションに描かれる。

もうひとりの主人公は、警官のリチ。彼は「世界で最も危険な街」と言われているシアダー・ファレスという100万都市の警察署で働いている。年間3000人をこえる殺人事件が起きている土地。殺人の現場で鑑識活動や遺体の検分などにあたる警察官たちは、なんと覆面をしている。顔がばれると、麻薬組織に狙われて殺されるのだという。なんという常識外れな、恐怖に支配されている恐るべき街……リアル北斗の拳というか、リアル・マッドマックスというか。

リチは正義のために戦う信念の人であるけれども、そして同時に彼の表情からは深い深い諦念が伝わってくる。映画の中での彼のパートは、静謐につつまれている。かつては静かで愛すべき街だった故郷を、彼はいまも愛している。「ここにあるのは死と暴力だけじゃない。愛も優しさも気遣いもある」。リチはそう独白するけれど、人は狙われるのを恐れて外出せず、ストリートには人影がない。

アメリカは巨大な麻薬の消費地だ。かつてはこのマス市場に向けて、コロンビアから大量の麻薬が運ばれていた。しかし1980年代のレーガン政権時代の麻薬戦争によってコロンビアからのルートが壊滅すると、麻薬の道はメキシコ経由に変わった。そしてメキシコの麻薬組織が台頭し、まるで軍隊のように武装し、メキシコ政府と真っ向から対立するようになり、2000年代後半からの血で血を争う麻薬戦争となる。かつては静かだった街が戦場に変わり、すべては呑み込まれていく。

狂気と諦念がリフレインのように何度もくり返され、見ていると目眩がしてくるようなドキュメンタリである。戦慄ということばは、こういう映画のためにあるのだろう。

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