宮沢りえが選んだ、果てなき道を突き進む旅

2014年11月14日 20:10


7年ぶりに映画主演を飾った宮沢りえ
7年ぶりに映画主演を飾った宮沢りえ

[映画.com ニュース] 「約束されていない場所に向かっている感覚」――。宮沢りえは、「紙の月」の撮影の日々をそんな言葉で振り返った。吉田大八監督によって目指すべき“ゴール”ははっきりと提示されていた。だが、本当にそこにたどり着けるのか。不安とプレッシャーを抱きつつ、確証のないままに、それでも道なき道を進んだ。(取材・文・写真/黒豆直樹)

八日目の蝉」の直木賞作家・角田光代氏の小説を「桐島、部活やめるってよ」の吉田監督が映画化。銀行の契約社員であり地味で平凡な妻であった主人公が、巨額の横領に手を染めおちていく姿、その過程で不思議と輝きと美しさを増していくさまを描く。

オリヲン座からの招待状」以来、7年ぶりの主演映画。もちろんその間、何もしていなかったわけではない。正確に言えばこの10年――野田秀樹演出の舞台「透明人間の蒸気」に出演し、宮沢自身の言葉を借りるなら「そこで自分の無力さを知って」以来、舞台を主戦場に戦ってきた。

「自分に足りないものを知って、それを埋めていく作業――この10年は芝居の“筋力”を上げていく時間だったと思います」。その前年(2003年)の春に発表された日本アカデミー賞で、29歳(当時)にして最優秀主演女優賞(「たそがれ清兵衛」)に輝いた女優が、舞台の上で己の無力さに打ちひしがれたというのだから、ただごとではない。

「阿部サダヲさんをはじめ、舞台で活躍されている方がいっぱいいらして、みなさん、ゼロから想像力を膨らませて毎日、新しいことにトライしているんです。そこで自分の引き出しの足りなさを痛感しました。いま、10年経ってやっとできるようになったのは『力を抜く』ということですね。あの時、新国立劇場の舞台の一番奥から50メートルくらいを走って登場したんですが、一生懸命走って、一生懸命立っていました(笑)。ようやくいま、全身の力を抜いて立っていられるようになったのかな」。

その後、数々の野田作品や蜷川幸雄の舞台で凛とした輝きを見せてきたのは周知のこと。三谷幸喜の舞台「おのれナポレオン」では、天海祐希の心筋梗塞による降板に伴い、わずか2日の稽古を経て、完璧に代役を務め上げたのも記憶に新しい。そして昨年、40歳を迎え、自分の中で映画への思いが高まっていくのに気付いた。

「まだまだ演劇の世界でやりたいこと、やらねばならないことはあります。でも、30歳の時に掲げていた目標に近づくことはできた手応えも感じていて、さらに40歳から50歳への10年を考えた時、映画と舞台をバランスよくやっていきたいという気持ちが芽生えたんです」。

「紙の月」の一場面
「紙の月」の一場面

そんなタイミングでちょうど、宮沢の元に舞い込んできたのがこの「紙の月」のオファーだった。

「それまでも映画の話はいただいていたんですが、やはり自分の気持ちが切り替わったこのタイミングが大きかったです。と同時に届いた台本が“光”を放っているのをどこかで感じていました。読んでみて『これは手強いぞ』と思ったし、正直に言えばこれまでに『手強い』と感じてお断りしてきた仕事もありました。でも、この10年できっと『そこに挑戦してみたい』と思える力をも蓄えてきたんでしょうね。手強いものこそいま、やるべきだと思えたし、吉田大八監督と聞いてこれは飛びこむしかないぞ! と思いました」。

「約束されていなかった場所」に宮沢はたどり着いた。「映画という神秘的な世界に生きることが出来て幸せでしたし、吉田監督と出会い、クリエイティブな毎日を重ねたことで、私にとっても大好きな作品になりましたし、宝物が1個増えました」と笑顔を見せる。

これからの10年、宮沢りえはどんな姿を見せてくれるのか。10年先を見据える冷静な視点、情熱と衝動の赴くままに体を反応させる直感が体中に同居し、せめぎ合っているようにも見える。「確かに(笑)。作品を選ぶときはいつも直感を大事にしています。ただ、舞い込んで来た作品に直感的に飛び込むのも大切ですが、これから50歳に向かう10年で、自分の方から『こういうものをやってみたい』と思えることをゼロから作っていくことへの興味がわいています」。

成功も、完成も約束されていない場所へ、旅はさらに続く。

紙の月」は、11月15日から全国で公開。

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