伝説の映画監督、足立正生。35年ぶりの新作「幽閉者(テロリスト)」

2007年1月30日 12:00

「幽閉者(テロリスト)」足立正生監督
「幽閉者(テロリスト)」足立正生監督

60~70年代アングラ界の若き旗手と呼ばれながら、撮影のため訪れたパレスチナで日本赤軍に合流した伝説の映画監督、足立正生。00年に日本に強制送還後、著作活動を経て、この度35年ぶりに新作「幽閉者(テロリスト)」を発表、注目を集めている。

アラブでの革命に空港爆破事件、主人公のモデルはテロリスト岡本公三。しかし観終わった後そういった設定やエピソードの印象は薄い。監督が本当に撮りたかったものとは──。「足立が撮るからと、岡本公三や日本赤軍のリアリティを期待した人も多かったようですが、現代からそこを照らしても成立するのはノスタルジーだけ。僕はむしろ70年代初頭のモチーフを現代の中で考えてみたらどうなるかに興味があった。刑務所の設定や保安部隊の拷問は岡本から聞いた話を参考にしましたけれど、ベースは計33年も幽閉されていたフランスの革命家L・A・ブランキの『天体による永遠』で、主人公が狂っていく過程に僕やブランキの考えや経験を入れ込んで描いています」

主人公が内省していく哲学的な内容は興味深いが、真理は映画で教えられるものではなく、各自が経験を経て辿り着くしかない。そう考えると、結局映画が与えられるものは作品の持つエネルギーしかないのでは?「まったくその通りですね。全編にわたる哲学的なモノローグは、主人公が拷問によって純化していく中での念仏みたいなものなので、観客には聞こえても聞こえなくてもいいんです。ラストを明確な答えに導いていないのも、観た人に自分で考えてほしいからなんですよ」

拷問で「死」に向かっていたはずの主人公は、肉体と精神のすべてが削ぎ落とされて核だけになった時、存在が「生」へと転化する。だから内容は「負」でも「正」のエネルギーが感じられる作品となったが、実はそのパワフルさの源は監督自身にあったようだ。「鈴木清順監督も、『こんな腕力のある映画なら少しは世の中に毒を流せるはずだから、どんどん流すべきである』という感想を言ってくれた(笑)。僕の場合、撮りたいものや言いたいことにどうしても集中していくから、余分なものを削いだ腕力勝負の映画になるのかもしれませんね。映画を始めた時、言いたいことそのものを言えるし、いろんな実験もできるし、もう僕には映画しかないと思った。今もその気持ちは変わらなくて、今回久々に撮ったら曖昧だったいろんな事がハッキリして、力が沸いてきたんです。きっとずっとその繰り返しですね」

「幽閉者(テロリスト)」は、2月3日より渋谷ユーロスペースにてロードショー。

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