劇場公開日 2017年12月16日

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花筐 HANAGATAMI : インタビュー

2017年12月20日更新
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「花筐」鬼気迫る美しい叔母役・常盤貴子「大林監督の一番の薬は映画だった」

映像の魔術師、大林宣彦監督ががんによる余命半年の宣告を受けながら、メガホンをとった「花筐 HANAGATAMI」が12月16日、東京・有楽町スバル座で封切られた。「野のなななのか」(2014)に続き、今作が2度目の出演となる常盤貴子が、壮絶だった大林組の現場、大林映画の魅力を語った。(取材・文/平辻哲也)

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「花筐」は檀一雄の同名小説を原作に、1941年、戦争の影が漂う佐賀県唐津を舞台に、我が「生」を自分の意思で生きようとする8人の若者の姿を描く群像劇。商業映画監督デビュー作の「HOUSE/ハウス」(1977)より前に書き上げた幻の脚本を映画化したもので、大林作品の原点であり、かつ集大成的な作品だ。

「クランクインの3カ月前くらいだと思うんですけど、監督のお宅にお邪魔したときに、檀一雄さんの貴重な本を貸してくださったんです。でも、その原作の中でどれが自分の役か分からなかったし、仕事を離れて普通に楽しく読みました」

常盤は、主人公の榊山俊彦(窪塚俊介)ら17歳の若者を見守る美しい叔母、江馬圭子役。大きな洋館に住み、亡き夫の妹で肺病を患う美那(矢作穂香)の面倒をみる。まるでヴァンパイアのような描写もあり、ミステリアスな女性だ。「『野のなななのか』の時もそうだったのですが、役柄の捉え方がとっても難しかったです。まず、私の役は生きているのか?死んでいるのか? そもそも人なのか、人じゃないのかすら分からない(笑)。そこから始まるので、あんまり深く考えなくなるんです。私たちの世代は、役柄に履歴書を書いて小、中、高校はどういう生活をして、どういう性格で、どんな地域で育ったのかを考えなければいけないと教わってきましたが、それらは俳優がそれぞれやっておくことで、大林監督の現場では、その一瞬、一瞬に感じたことを出していくほうが求められるんですね」

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もともと大林作品の大ファンだった。9月、東京・池袋の名画座「新文芸坐」で行われた大林監督の特集上映にも、足繁く通っていた。「(『ふたり』の主演の)石田ひかりちゃんと同い年で、『時をかける少女』『ねらわれた学園』などメジャーな映画は見ていて、(大林作品は)青春の1ページにありました。でも、なかなかご縁がなかったんです。新人の頃には、映画雑誌の取材で、『いつか一緒にやってみたい監督は?』という質問に、黒澤明監督と大林宣彦監督! と怖いもの知らずで答えていたこともありました」

その大林監督との出会いは意外な場所で実現。「新潟・長岡の花火大会でした。私は(NHK大河ドラマの)『天地人』で直江兼続の妻、長岡市与板出身のお船の方を演じさせていただいたご縁で花火大会に呼んでいただき、監督は長岡花火の映画『この空の花』の撮影でいらしていて。今まで出会えなかったんだから、次があるかどうかも分からない。思い切って何十年来のファンであることをお伝えすると、監督は『映画雑誌のインタビューで答えてくれていたね』と言ってくださったんです」。大林監督の現場では「マネジャーなし」と昔から聞いていたので、「1人で現場に行けるように、ずっと訓練していたんですよ!」とも(笑)。そんなアピールのかいあってか翌年、「野のなななのか」へ出演することになり、昨年撮影した大林作品2作目となる「花筐」への出演も自然と決まった。

しかし、昨年8月、「花筐」のクランクインの直前に唐津の病院で大林監督の肺にがんが発覚。「ステージ4」という深刻な病状だった。「さあ、明日から撮影が始まるぞ、とワクワクしながら唐津のホテルに到着して早々、大広間に全スタッフ、キャストが集められ、監督からの余命半年宣言です。頭の中が真っ白になり、何も考えられなかった。クランクインするか、しないかという話もあったみたいなんですが、監督は『よーい、スタート』をかけられました。そこから1日目、2日目、3日目となるにつれ、監督の状態が悪くなっているのが分かりました。たった3日で『余命が3カ月に変わっていた』と後で聞いて、倒れそうになりました」

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撮影が始まって1週間が経った頃、再びスタッフ、キャストが集められ、大林監督が最先端の医療を受けるために、一時帰京すると告げられた。「途方に暮れました。監督はもう唐津には帰ってこないんだ、と。だけど、奥様でプロデューサーの恭子さんが『監督を絶対、唐津に帰すから』と言ってくださり、本当に、現場が騒然とするくらい、あっという間に帰ってきてくださったんです。そして、監督が唐津に戻ってこられた次の日は撮影がお休みだったんだけど、お昼前に恭子さんから『監督がみなさんとランチどうですか?』と言っています、ってメールが来たんですよ。びっくりしました。監督は、ご自身の体で大丈夫だと感じたんだなと思いました。そうしたら案の定、そこからグングン元気になっていかれて。『病は気から』ってよく言うけど、それを目の当たりにしました(笑)。監督の元気の源は映画で、一番の特効薬が映画だったんですね。監督ご自身も『ポジティブな性格で良かった』とおっしゃっていました」と笑って振り返った。

現場復帰した大林監督は演出面でも本領発揮した。「大林組の撮影はキャリアがあればあるほど楽しいかも。他の現場とは全く違う撮影をするので、自分が出ていないシーンの撮影を見ているのも大好き。今までの経験は全く関係なくなるというか。みんな、今日は何をするんだろうって、構えて参戦する感じでした(笑)。私が踊るシーンも、もともとはなかったんですよ。能と日舞を混ぜたみたいなもので、それに合わせて歌を歌いながら……みたいな。みんな、もう本当にいろんなことに挑戦していました。『野のなななのか』の時にも少しあったんですが、『花筐』 でも、小節に区切って、台詞を言わなきゃいけないところがあるんです。監督は、体内にリズムが完全に刻まれている方なので、『この三小節の間にこの二人の会話を終わらせてね』と普通におっしゃるんです。みんなは『……どうやるの?』みたいな(笑)。でも、頭では分からないけど、やれるんですよね」

まさに大林マジック。完成した「花筐」には圧倒されたという。「今までの映画の中でも、群を抜いて大暴れですよね(笑)。濃さが半端ない。色もすごくビビットで驚いた。ストーリーもそうだし、いろんなものがうごめいている。その背景に色濃くあるものが唐津の『おくんち魂』であり、戦争であり、と。まさに、大林監督にしか撮れない、大林監督にしか作れない映画です。新文芸坐の『大林宣彦映画祭2017』で、監督の各作品を改めて何本も見ましたが、全くぶれていない、ということを改めて実感。監督は自分の道を見つけるのが早くて、好きなものを好きなようにずっと撮り続けることが許されている希有な監督ですよね」

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