劇場公開日 2017年12月2日

「カウリスマキの覚悟ゆえに淋しい」希望のかなた バッハ。さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カウリスマキの覚悟ゆえに淋しい

2017年12月31日
PCから投稿

悲しい

楽しい

もともと貧困や格差の問題を作品に織り込んできたカウリスマキだが、前作『ル・アーブルの靴みがき』で難民の問題に正面から取り組んだことで、完全にスイッチが入ったように思う。『希望のかなた』は前作よりもカウリスマキ本来のテイストが強い作品に思うが、同時に難民の現実をきちんと描くことなくこのテーマは扱えないと覚悟を決めたに違いない。

とぼけたユーモアともの悲しさと確固たる人生哲学がカウリスマキの特徴とすれば、今回の映画はリアルな社会問題をみごとにカウリスマキの意匠に落とし込んだ。その点では『ル・アーブル』より完成度も純度も高いカウリスマキ映画だと思う。

しかし、だ。その完成度の高さ故に、今後はカウリスマキというフィルターを通して灰色がかったファンタジーを眺めるあの感覚は味わうことができないとも言える。カウリスマキの覚悟には感嘆するし応援もするが、はかない夢のようなカウリスマキの世界で現実逃避をする愉悦は過去のものになった。そうさせてしまったこの世界と自分たちを憎む。

村山章