劇場公開日 2017年12月2日

「揺れる世界を描きつつも、いつもと変わらないカウリスマキの視座」希望のかなた ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0揺れる世界を描きつつも、いつもと変わらないカウリスマキの視座

2017年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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かつては、カウリスマキの新作が劇場でかかるたびに「彼はいつも変わらないな」とニヤニヤしながら心でそう感じる自分がいたが、この映画にはこれまでと同じような「変わらなさ」と共に、あのマイペースなカウリスマキ監督からは想像できないようなグローバルな視点が介在しているのに驚かされる。かくも彼が紛争や難民についてこれほど深く視点を注いだことがこれまでにあっただろうか。

本作は決して夢見がちで希望や感動をもたらすことはない。だがその代わりに、物語が展開するごとに小さな化学変化が絶え間なく生じているのに気づかされる。あの行方不明の妹を救いたいとする主人公の思いや、仏頂面の登場人物たちがかすかに見せる優しさ、心遣い。それらが一つ一つバトンを繋ぐように社会を織り成していく視点が尊く心に響く。今回もカウリスマキは観る者の心に仄かな火を灯して去っていった。あのラストの向こうを切り開くのはきっと我々自身なのだ。

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牛津厚信