劇場公開日 2017年8月19日

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「カーアクションもここまでオシャレになった」ベイビー・ドライバー みうらさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カーアクションもここまでオシャレになった

2017年8月31日
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鑑賞方法:映画館

前評判の良さをよそに、都内の上映館の少なさからなかなか観る機会がなかったのですが、ついに立川の爆音上映で鑑賞することができました。

カーアクションもここまでオシャレに洗練されてしまったのかとしみじみ、映画の世界に浸ることができました。

ひと昔のカーアクションといえば筋肉隆々のマッチョが、女や金、時には友情を巡って派手に暴れ回ればそれでよし、火薬の量をどれだけ使ったか、車を何台爆発させたかを競っているような脳筋映画が多かった印象でした。
しかし、時代の流れと共に近年では、そんなカーアクション映画が少なくなってきている気がしていました。個人的にワイルドスピードを頂点として、筋肉の経脈は引き継がれていますが、本作はそんなカーアクションと一線を画し、常にクールでスタイリッシュ、テンポの良いストーリー展開、上質なカーアクションを終始観れて正統進化を感じました。

本作の主人公ベイビーは筋肉があるわけでも、口が達者なわけでも、2枚目な顔でもない。最近の若者のようないでたち。
そして、最近の若者のように何をやっても反応が薄く自分の世界から出てこない。しかし、やることはきっちりやるし、なんなら人より優れているから余計に鼻に付く。
そんなベイビーのクールさは、冒頭の赤いスバルで逃げるカーアクションで極致に達する。音楽に乗せて体を揺らし、車を走らせ、時にはワイパーをかけて、リズムに乗せて走らせる。ベイビーは音楽と一体であり、観客もベイビーと一体になるのである。
一見して、音楽の力で映画を引っ張る昨今の流行に乗った映画のようだが、決して音楽一辺倒ではない。音楽はあくまでもアクションを魅せるツールであると感じる。

この映画の評価でミュージカルのようだ、とよく耳にしますが、なるほど確かに上質なミュージカルを見ている気分にもなりました。
決してミュージカルのようにベイビーが歌い出すわけではありませんが、音楽に乗せて話が進んで行く。物語がドライブして行くのである。

彼がチームを組む仲間は、タトゥーのアジア人や威勢の良い黒人、スタイル抜群の女と 2枚目な彼氏など。一癖も二癖もあり、どっかの映画に出てきそうな濃いキャラ造形。そして、彼らをまとめる、裏社会のボス。
一人一人のバックボーンが想像され彼らが魅力的に感じる。特にバディとダーリンというコードネームのカップルは脇役で終わらない素敵な魅力を感じました。

また、この本作はそのポスターアートのルックとは裏腹に、きつめの残酷描写がきっちり描かれているのにも好感が持てました。
バッツの死や、ドクの死などはそこまで見せるかというぐらいに見せています。

何より、本作の魅力はデボラを演じたリリー・ジェームズの可愛さでしょう。
デボラの出てくるシーンだけは、かなり御都合主義で、なぜデボラがベイビーを好きになったのかも強い理由が描かれません。しかし、それでもベイビーとデボラにはこのまま走り出して欲しいと願わずにはいられません。コインランドリーで一つのイヤホンで音楽を聴く2人の姿は魅力的で仕方ありません。
余談ですが、イヤホン一つと言えば個人的に映画の中で始めて男どうしでイヤホンをシェアする姿を眺めました。意外とあり!!

最後ベイビーとデボラの逃避行は橋の上で終わりを告げます。
ベイビーは警察に封鎖された橋を強行突破しようとアクセルを踏むデボラを止め、車のキーを抜きます。
「こちら側の世界に来るな」と言葉を残してベイビーは手を挙げて捕まります。

5年の懲役後、仮釈放に迎えにきたデボラとベイビーがキスをしてこの物語は終わります。
セピア色の思い出の中にいたデボラが、色を持ちベイビーの世界へ再び戻ってくる。彼らの物語はこれからドライブして行くのでしょう。

久しぶりにまとまった上質なアクション映画を観れて大満足です。万人にオススメできる一作だと思います。

PS.
立川の爆音上映で鑑賞しましたが、音楽のシーンはもとよりエンジンのかかる音、銃撃の重低音、クラッシュの大迫力等、音の素晴らしさを改めて認識することができました。
機会があれば是非爆音で!

みうら