ベイビー・ドライバー : 映画評論・批評

ベイビー・ドライバー

劇場公開日 2017年8月19日
2017年8月8日更新 2017年8月19日より新宿バルト9ほかにてロードショー

まさに神業。溢れる音楽愛とアクションが同期した、前人未到の新感覚

まずもってこの面白さ、今年1、2位を争うレベルと言って差し支えないだろう。冒頭から車が縦横無尽に疾走する爽快感は折り紙つき。いざ、お気に入りのナンバーが流れ出すと、イントロ部分から完コピした主人公“ベイビー”(アンセル・エルゴート)が一挙手一投足を同期させ、華麗なるステップでアクセルを踏み、神が舞い降りたかのような手さばきでハンドルを切る。こうして、すがりつくように追いかけてくるパトカーの群れを音楽に合わせ優雅にかわし、今しがた銀行強盗を終えたばかりの仲間たちを見事に逃がすのだ。

衝撃を受けっぱなしのこのオープニング。台詞はほとんど無い。なのに、この一連の映像からは、各々の役割や性格、特徴、現在置かれている状況、力関係などが全て細やかに伝わってくるではないか。まさに神業。一瞬、ウォルター・ヒル監督の「ザ・ドライバー」やニコラス・ウィンディング・レフン監督の「ドライヴ」などが頭をよぎるが、いや、奇才エドガー・ライトが放つこの号砲には、それらの作品とは異なる何とも言えない遊び心と華やかさ、可愛らしさが同居している。

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基本軸となるのは、DOC(ケビン・スペイシー)を首領とする犯罪チームとそのお抱えドライバーの物語。とはいえ、本作は決してアクションに固執することなく、人や車の動きを使ってリズムを刻むミュージカルであり、みずみずしいボーイ・ミーツ・ガールのラブストーリーであり、哀しみの過去を持つ青年が“音楽”を媒介に社会とのつながりを保とうとする物語でもある。その全てを呆気にとられるような手法で脚本に落とし込んだ傑作。かくも音楽の力を借りてあらゆるジャンルを横断していくライト監督の手腕は、まさに“ベイビー”の卓越した運転テクニックそのものと言える。

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」や「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」など台詞の面白さと奇想天外な発想で快進撃を遂げてきたライト監督。彼に以前、冗談半分で「あなたは映画界に革命を起こそうとしているのか?」と尋ねた事がある。彼は笑いながら「そんな大それたこと考えてないよ」と答えていたが、その実、彼は今後の映画界を少なからず変えるかもしれない本作を、密かに20年以上も前から計画してきたようだ。これまでとガラリと違う。一つ向こうの世界へ行ってしまった感すらある今回の仕上がり。その強力な影響力は何よりも終映後の観客の足元、その軽やかなステップにこそ、最も端的に表れると思うのだ。

牛津厚信

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