劇場公開日 2017年11月17日

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不都合な真実2 放置された地球 : インタビュー

2017年11月22日更新
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「不都合な真実2」を送り出した元副大統領アル・ゴア氏のベストムービーとは?

元米副大統領のアル・ゴア氏が地球温暖化問題を訴え、世界中で大ヒットした2006年製作のドキュメンタリーの続編「不都合な真実2 放置された地球」がヒット公開中だ。前作は第79回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞、主題歌賞の2部門で受賞。ノーベル平和賞も受賞したゴア氏が10年の時を経て、改めて映画で問いかける思いは? 第30回東京国際映画祭で来日したゴア氏に聞いた。(取材・文/平辻哲也)

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「不都合な真実」で地球温暖化問題への関心を向けさせたゴア氏。自身も名声を手にし、問題解決へ大きく進むかと思われた。しかし、この10年間で温暖化は一層深刻化し、トランプ大統領は国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明するなど問題への取り組みは後退しているようにも思える。映画では、環境問題の最前線に立つゴア氏が自身の使命を全うしようとする姿が描かれている。

SNSも進んだ今、改めて映画で続編を製作した理由は何か。「今はドキュメンタリーの黄金時代だと思っています。SNSなどいろんな情報が我々の周りにたくさんありますが、映画はみんなが同じ空間に座って、コミュニティとして体験ができる。90分から2時間以内に完璧なストーリーを語ることができるからです」と“映画の力”を信じている。その原体験は? と聞くと、「本当に小さい時ですね。(ハーバード)大学時代はいっぱい見ています。今、頭に浮かんだのは(フランスに支配されていたアルジェリアの独立戦争を描いた)『アルジェの戦い』。ちゃんと作られた作品に出合った時の感動は格別です。もちろん、読書も好きなんですけど、自分にとって、映画は強く訴えかけるメディアです」と語った。

さらに突っ込んで、ベストムービーを聞くと、「1本で答えられますか?」と逆質問も。筆者がフランク・キャプラ監督、ジェームズ・ステュアート主演の名作「素晴らしき哉、人生!」を挙げると、「それは良いチョイスですね。では、『2001年宇宙の旅』。最近、孫と一緒に見たんですけども、大あくびで、(展開が)ゆっくり過ぎるよって……」と笑い。ベルリンの壁崩壊前の東ドイツを舞台に、劇作家を監視する秘密警察の主人公の葛藤を描いたドイツ映画「善き人のためのソナタ」にも衝撃を受けたという。「大学のルームメイトが(東京国際映画祭の審査委員長を務めた)トミー・リー・ジョーンズだったんです。『逃亡者』『ノーカントリー』もいい」と東京で再会した旧友の代表作を挙げてくれた。

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映画では前作以上に、人間・ゴアに焦点を当てている。選挙選出馬に当っての家族会議で、幼い娘が残したメモを額縁に入れて飾っていることを、うれしそうに紹介するシーンは印象的だ。娘は選挙に出るメリットとして「勝てるかもしれない」と書き、デメリットとして「勝ったら、パパと会える時間がなくなる」と記した。「子どもは4人いて、もうすぐ5人目の孫も誕生します。あの時の娘(次女のクリスティン)はハリウッドで脚本家になりました。『フューチャーラマ』っていうテレビアニメの脚本を手がけていて、私もカメオ出演しているんですよ」と笑みを浮かべた。

多くの挫折を味わいながらも、その歩みを止めないゴア氏。その突き動かしている源は何か。「私は、今やっていることが本当に光栄、名誉だと感じています。私にはすべてのエネルギーを注ぎ込むものがあるんです。自分がやるべきことだっていう強い意識を持っているので、疲れを知らないのです。仕事をすれば、するほど、エネルギーが戻ってきて、喜びを感じています。『炎のランナー』の主人公であるランナーは、『走ると神の喜びが与えられる』と言っていましたが、まさに私もそれを毎日感じています」と語った。

環境問題への関心のきっかけは60年代、気候問題の権威であるロジャー・レヴェル教授から直接指導を受けたこと。「7年後、議員になった私は国会で『地球温暖化対策は何をやっているの?』と言ったら、誰も知らなかった。そこで、初めて聴聞会を開いて、問題意識を高めていこうとしました。科学者たちは50年間ずっと警鐘を鳴らしてきたわけですが、最近になっていろんなところで異常気象が起きたことで、すごく説得力が増し、いま解決策が出されています。だから、私は希望を持っていますし、すごく興奮しています。だからもっともっとエネルギッシュになれるのです」。

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人々が温暖化問題から目をそらす理由は3つあるという。「1つ目として、人間は大変なことや痛みを伴うことを遠ざけるという性質があります。2つ目は今まで空をまるで下水のように使ってきた業界が、『みなさん、この問題から目を背けて大丈夫ですよ』っていうようなやり方を取っていること。実はこれ、何十年か前にタバコ業界がやったのと同じ手なのです。科学者たちが肺ガンへの警鐘を鳴らしたのに、タバコ業界は俳優に医者の役をやらせて『いや、全然問題ないんだ、タバコどんどん吸って大丈夫、安全ですよ』と宣伝しました。石炭、炭素燃料を使う業界は同じPR会社を使って、人々を混乱させています。3つ目は、法律を変えたくない政治家がこの業界と一緒になって、人間の弱さを突いているからです」と解説した。

世界を駆け巡る講演では、富士山の前にソーラーパネルが並ぶという風景をスライドで紹介しているという。日本の環境対策にはどう思っているのか。「太陽光発電では中国に続いて2位で、アメリカよりも上です。安倍首相もパリ協定を結ぶのに非常に貢献してくださった。世界で非常にリーダーシップを発揮していると思います。いい点もいっぱいあるんですけど、少し残念なのは税金を使って、貧しい国に石炭発電所をたくさん作ろうとしていることです。例えば、インドネシアなのですが、ちょっとエネルギー効率が上がってると言っても、これは『健康的なたばこが出たよ』と言っているようなもの。日本が世界で一番助成をしているのですが、やめてほしいと思います」。

温暖化問題の今後については希望を見出している。「アメリカの有名な経済学者ルディガー・ドーンブッシュは『非常に長くかかると思っていたことが一気に進み出すことがある』と言っています。10年前には、気候危機の解決はまだまだ遠いところにありましたが、今は太陽光、風力発電のコストはどんどん安くなっていますし、電気自動車、蓄電能力の技術も進んできています。我々は今まさに持続可能性革命の初期にあります。これは産業革命よりも規模が大きく、データ革命と同じようなスピードで進むと思います」と力強く語った。

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