劇場公開日 2017年5月13日

「伏線もオチもないが、多様性は感じる」アムール、愛の法廷 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0伏線もオチもないが、多様性は感じる

2017年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

王道のフランス映画である。
男女の恋愛がテーマだが、男性は初老のおじさんで、女性は大きな娘のいる中年、激しく燃え上がる恋ではなく、ゆっくりと温まっていくもので、物語は彼らの今後をほのめかすだけで終わる。
これといった伏線もなく明確なオチもない、苦手な人には物凄く苦手な作品であろう。

主演の気難しい裁判長ミシェル・ラシーヌを演じたファブリス・ルキーニの過去の作品は『屋根裏のマリアたち』を観たことがあるぐらいだろうか。
この作品では、スペイン人女性に恋をして人間性を取り戻す気難しい男を演じていた。
本作の裁判長も過去に恋をした女性に法廷で偶然再会したことで人間味を取り戻していくので、似たような役を演じていると言える。
ルキーニはインタビューで「私の演じてきた役は非常に少ない。私は自分の限界を楽しんでいる」と述べている。
他にも「カフェで女性を振り返らせるようないい男を演じることはできない」と述べていたり、「役を作り込むような要求をしないでほしい」と述べるなどフランス人らしい発言を連発していてなかなかユニークである。
エリック・ロメール作品にも出演しているらしいので、我が家に眠ったまま未視聴のロメール作品でいずれはチェックしようと思う。

判事が恋する女性役のシセ・バベット・クヌッセンは『インフェルノ』に出演していたらしいが、どんな役だったのかも覚えていない。
その他の法廷の陪審員や被告、判事、証人などのほとんどが素人を起用しているようだ。
監督のクリスチャン・ヴァンサンも「役者が私を驚かせてくれることを期待している」と述べているので、陪審員たちが法廷の合間に昼食を取りながら世間話をするところなども含め結構アドリブが多いのかもしれない。

本編中、陪審員を選ぶ際は法廷にいる人々の中から立候補して選ぶ仕組みになっているのだが、面白いのは被告の弁護士が相手の見た目で判断しているところである。
いかにも軽薄そうな外見の女性やアラブ系の男性は違う裁判になっても冷たく拒否されている。

本当に裁判が判決に至るまでの過程も主演2人のやり取りも淡々と進んでいくだけの作品である。
ただし恋する相手を想ってソワソワして、相手にいいところを見せたくて人間らしくなる初老の男性を主役に据えるのは意義深い。
日本では恋愛映画と言えば高校生やせいぜい20代が主役である。
初老の男が女性にアプローチをかけるなど「ストーカー!」とか「キモイ!」などとひどく拒絶されそうである。
日本で本作のような作品が映画化されるイメージが湧かない。
多様性がつとに乏しくなっている日本映画の現状では、この手の作品が制作されること自体が羨ましい限りである。

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曽羅密