劇場公開日 2017年6月24日

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「コンセプト映画かな?」ふたりの旅路 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5コンセプト映画かな?

2017年9月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

桃井かおりとイッセー尾形がコンビで共演する日本=ラトビア合作映画である。
桃井と尾形のコンビといえば想い出すのはソクーロフ監督作品の『太陽』である。
尾形が昭和天皇を、桃井が香淳皇后を演じた。
日本人である筆者からすれば完全に昭和天皇と皇室自体を誤解した映画だったが、2人のやり取り自体は丁々発止で息が合っていた。
本作の監督がマーリス・マルティンソーンスというラトビア人?なので、『太陽』における2人の相性の良さと演技力が強く印象に残っていても不思議ではない。
尾形の方は最近だとマーティン・スコセッシ監督作の『沈黙』において代官を演じていた。
作品自体はそこまで評価しないが、尾形の演技は主演者の中で1、2を争う良さだった。
いずれにしろそんな芸達者の2人の共演作なのでいやが応にも期待させられた。

しかし蓋を開けてみると、2人の才能が浪費されているなぁ、と思わず嘆息する内容だった。
ラトビアの首都リガと神戸が姉妹都市であることからこの企画が出発しているかもしれないのだが、主人公の桃井の娘が事故で死んだ直後に夫も阪神大震災で死んでしまったという設定はどうだろうか。いささか安易だ。
また異国の地で2人が着物を着続けるから必ずしも日本的になるわけではない。
都市全体が「バルト海の真珠」と言われ、世界遺産にも指定されているリガの歴史ある町並みや王宮などの観光地を着物姿の2人が歩くのは異国情緒を刺激してなかなか絵になるが、表面的だ。
物語の中で和食は大きな地位を占める。
また最後に唐突に折り鶴が登場する。
どちらも日本を代表するアイコンだが、日本人である筆者には全くピンとこない。
もし本作の監督が日本人なら間違いなく世界向けに日本を表面的に紹介するヤバイ奴が監督していると思うが、外国人だとわかれば許せる。

先日今年の訪日外国人の数は既に2000万を上回ったとニュースで見た。
インターネットでも日々日本の映像が海外に紹介され、良くも悪しくもあまりにも他の国と違うことから「日本惑星」とまで呼ばれている。
筆者は以前に『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』というドキュメンタリー映画を観たことがある。
元アメリカン・ヴォーグ名物編集長の生涯を扱った映画だが、映画の中で彼女が「日本は美をよくわかっている。スタイルこそ美であり、しかも日本はそれを哲学の域にまで高めている」のようなことを言っていたと思う。
実際に彼女は何度か来日して、わざわざヴォーグの撮影もしている。
おお、こんなところにも日本信者がいたのか!とビックリしたが、彼女の発言はある種の的を得ていると感心した。
「ある種」と書いたのには理由がある。
上記の内容や「わびさび」など日本の国内外で日本人論はさかんだが、結局のところよくわからないからだ。
我々日本人が日本的だと感じるのは理屈じゃなく感覚なのだと思う。
これがまた説明が難しい。なにせ感覚なのだから。

本作は名優2人の演技を活かしきれずふわふわと物語が流れ、そしていつの間にか終わった。
まさにそんな印象だった。
外国人監督が一生懸命日本的なものを引き出そうとしていた熱意は感じる。
悪くはない。しかし良くもない。評価の難しい作品である。
着物のコンセプト映画と捉えればあるいは…

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曽羅密