劇場公開日 2017年12月8日

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「善と悪と、お髭のアンバランス」オリエント急行殺人事件 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5善と悪と、お髭のアンバランス

2017年12月11日
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鑑賞方法:映画館

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アガサ・クリスティーの名作ミステリー2度目の映画化。
74年版は映画史に残る名作。
なので、どう頑張っても超える事は出来ない。
でも、本作も本作で面白かった。

ストーリーの面白さについては申し分ない。
上質の味わいのワインとでも言うべきか、これぞ英国ミステリー。
いつぞやの三谷幸喜脚本の日本版リメイクSPドラマも面白く、幾度も作り返されど名作の面白さは変わらない。
お初の方ならより一層楽しめるのでは。
ストーリーやオチ(犯人)は知り尽くされているので、割愛。
それらを分かってても、本作ならではの見所も。

何と言っても、話題の豪華なキャスティング。
監督と主人公・名探偵ポアロは、ケネス・ブラナー。
そして、このミステリー急行の乗客たちに、ミシェル・ファイファー、ジョニー・デップ、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、デイジー・リドリー…。
オスカー名優、人気俳優、演技派・実力派、注目株の若手たち。
彼らがオリエント急行に続々乗り込む導入部だけでワクワク。役者と舞台が整った。
ケネス・ブラナーが大きなお髭と卵に異常にこだわりあるポアロを楽しそうに演じている。
右京さん然り天才は奇妙で変人だが、確固たる正義も。
それにしても、ケネス・ブラナーの最近の職人監督ぶりには舌を巻く。手掛けてないジャンルは無いくらいでは?(笑)
華のあるキャストの中でも、やはり女優陣に目が行ってしまう。
列車内のインテリアやエレガントな衣装がその美しさを際立たせていた。

本作新たな要素は、良くも悪くも。
“オリエント急行殺人事件”と関わりあるもう一つの別の事件。74年版では冒頭で説明あったが、本作ではポアロが推理していく中で徐々に繋がりが見えていく。それはそれで引き込まれるものあったが、74年版くらいにとは言わないが、もうちょっと初めの方で印象付けても良かったと思う。
雪崩で列車が暫く立ち往生。身動き出来なくなった状況を設けたのはいい。が、それでは外に出る機会が出来てしまい(別に犯人が外へ逃げるって訳でもないが)、列車内の密室殺人事件の醍醐味が少々薄れてしまった気がした。
演出や物語の運び方も悪くはないが、ちょっと急ぎ足。ポアロが事件の真相に辿り着く決め手に欠けた。
豪華キャストは無論魅力だが、全員に素晴らしく見せ場があるとは言えず。あくまで全員で撤したアンサンブル。

乗り合わせた一見見ず知らずの乗客たち。
彼らには思わぬ関係と、悲しい事件の真相が…。
真相はいつもながら考えさせられる。
誰かが命を奪われた以上、それは絶対に許されない。
が、動機にはどうしても同情してしまう。
この殺人は、善か悪か。
ポアロの天秤も揺れる。
あなたの判定は…?

ポアロにはエジプトから次の事件の依頼が。
シェイクスピアからアガサ・ミステリーが専売特許になりそう。
とりあえず次の事件まで、お髭をもうちょっと整えて欲しいなぁ…。

近大