劇場公開日 2017年9月22日

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スイス・アーミー・マン : 映画評論・批評

2017年9月19日更新

2017年9月22日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

オナラで海を渡る。珍作だが、優しくて温かいハンドメイドの魅力に満ちている

無人島で絶望していた男がオナラをこきまくる死体を発見、その死体に乗ってオナラパワーで意気揚々と海を渡る映画である――。

バカげて聞こえても本当なのだからしょうがない。「スイス・アーミー・マン」は、死体と二人三脚でサバイバル生活に挑むファンタジックコメディ。漂流した主人公ハンクを演じたのはポール・ダノ。“メニー”と名付けられる死体役に「ハリー・ポッター」のダニエル・ラドクリフ。生者と死者という混じり合うはずのない2人が、奇妙な友情をはぐくむヒューマドラマでもある。

監督を務めたのは本作が長編デビューとなる気鋭コンビ“ダニエルズ”(どっちもファーストネームがダニエルなので“ダニエルズ”と呼ばれている)。ミュージックビデオ界で脚光を浴びた大注目の才能で、彼らの特徴をひとことで表すと“ハンドメイドの魅力”ということになる。

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“ダニエルズ”のふたりがこだわっているのは、奇想天外なビジュアルを可能な限り人力で実現させること。もちろんコンピューター上で合成したりはするのだが、極力CGで描き足したりはせず、どんな素材もロケ先で実写で撮影しようとする。例えばポール・ダノダニエル・ラドクリフの死体に乗って海を渡るシーンで、波をかき分けて進む死体はダミーでもCGでもなく、本当にダニエル・ラドクリフがやっているのだ。

一難去ってまた一難。陸地にたどり着いたハンクは深い森に迷い込み、“メニー”を背負って人里を目指す。なぜわざわざ死体を連れて行くのかというと、オナラで海を越えられただけでなく、この死体がことあるごとに役に立ち、窮地を救ってくれるから。まるで十徳ナイフ(スイス・アーミー・ナイフ)みたいに便利な死体=スイス・アーミー・マンというわけだ。

“メニー”は便利どころか、死体なのに途中から喋り出して、話し相手にもなってくれる。「そんなことあるわけない!」という真っ当な意見はどうか捨ててしまって欲しい。そもそもオナラで海を渡る映画なのだから。

しかもオナラで始まりオナラで終わる映画なのに、映像はとことん美しく、ハンクとメニーが“人生の喜び”を取り戻していく姿は感動的ですらある。そしてどんな無茶なことをやらかしても、“ダニエルズ”特有のハンドメイドの手触りのおかげでふかふかの毛布のように優しくて温かい。強烈にヘンな珍作だが、創意工夫に満ちたビジュアルと、ぬくもりと切なさと希望をたっぷり味わって欲しい。

村山章

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