劇場公開日 2017年4月8日

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作家、本当のJ.T.リロイ : 映画評論・批評

2017年3月28日更新

2017年4月8日より新宿シネマカリテ、アップリンクほかにてロードショー

稀代のウソつきか天性のアーティストか?「世界を騙した女」の破天荒な一代記

世紀末と言われた1999年に彗星のごとき天才作家が現れた。その名はJ.T.リロイ。まだ10代の若さでヤク中の母親に男娼をさせられていたセンセーショナルな体験を小説化し、中性的でミステリアスなルックスも手伝ってたちまちサブカル界のセレブに躍り出た。

映画界との繋がりで言えば、ガス・ヴァン・サント監督の「エレファント」で共同脚本を務めたり、アーシア・アルジェントがリロイ原作の監督デビュー作「サラ、いつわりの祈り」を発表したりしている。

ところが、である。わが世の春を謳歌していたセレブ作家はとんでもない秘密を暴かれてしまう。実はJ.T.リロイは実在せず、正体はローラ・アルバートという40歳の女性だったのだ。そしてローラの恋人の妹が金髪のウィッグとサングラス姿で天才少年に成りすましていたのである。

ガスもアーシアもすっかり担がれたこの珍事が(マイケル・ピットは替え玉リロイを口説きすらした)、当事者ローラが赤裸々に告白しまくるドキュメンタリー映画になった。いや、赤裸々かどうか本当のところはわからない。なぜならこのドキュメンタリーはあらかじめ客観性を拒否しているから。ひとつの事件にまつわる大勢の主観を描いた黒澤明の「羅生門」とは反対に、徹頭徹尾ローラの言い分だけで構成されているのだ。

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なぜ彼女は別人の名前で創作活動を始めたのか? なぜ性別も年齢も偽ったのか、なぜただのペンネームで終わらせずにJ.T.リロイを替え玉に演じさせたのか? なぜJ.T.リロイ人気に便乗して自分がロックシンガーデビューしてしまったのか? そして秘密がバレた時J.T.リロイを信奉していたスターたちはどうしたのか?

普通に考えれば浮かんでくる疑問はすべてローラによって明かされ、「世界を騙した女」の破天荒な一代記の様相を呈してくる。しかしわれわれ観客には新しい疑問が突き付けられる。この途方もない話を語っている女性は本当に信用に価するのか?

彼女が稀代のウソつきか天性のアーティストかは、事件の真相より著作の出来にこそ答えがあるだろう。ただこの女性が本当に食えないと思うのは、著名人との電話を片っ端から録音していて、この映画に惜しげもなく提供していること。ローラにとって都合がよすぎる告白も、セレブたちの肉声によって裏付けられ、なんだか真実そのものに思えてくるのだ。こんなに奇妙で面白い実話を提供してくれたローラ・アルバートというトリックスターに、野次馬として「どうもありがとう」と言いたい気分である。

村山章

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