劇場公開日 2017年3月3日

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ラビング 愛という名前のふたり : 映画評論・批評

2017年2月21日更新

2017年3月3日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

この歴史を変えた夫婦愛は、シンプルゆえに澄みわたり深く胸を打つ

この数カ月間、テレビをつければ愛の欠片もない大統領の姿ばかりで、アメリカという国の素晴らしさなどすっかり忘却していた。かくも時代や価値観が愚かに変容する中で、本作の存在はまさに救いそのものだ。これは歴史に名を刻んだ愛の物語。神様はきっと彼らがたどる運命を最初から見通していたのだろう。主人公夫婦の名前は愛、つまりラビング夫妻という。

時は1958年、米バージニア州ではまだ異人種間の結婚が法律で禁じられていた。リチャード(ジョエル・エドガートン)は恋人ミルドレッド(ルース・ネッガ)の妊娠を機に生涯を共にすることを決意。二人はわざわざワシントンDCまで足を運んで正式に結婚を果たす。しかし地元に戻ると保安官に逮捕され留置所へ。たとえ州外で結婚しても、彼らが州内で夫婦生活を送ることは違法にあたるというのだ。選ぶべき選択は二つ。離婚か、州外退去か————。

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ラビング夫妻は何かを声高に訴えたり、絶望の淵で泣きわめくような真似はしない。自分たちが置かれた状況を粛々と受け止め、限られた選択肢の中で実直に愛を育もうとする。そんな二人を演じる俳優がどちらも本当に素晴らしい。やや不器用ながらも家族を守らねばと健気な気負いを見せるエドガートン。そんな夫を澄み切った瞳でまっすぐ見つめ、その胸に抱きしめるネッガ。口数は多くなくても、わずかに触れ合い、わずかに微笑み合うだけで、そこに流れる空気が特別なものに変わっていく。これほどの演技を生み出すのに一体どれほどの心血が注がれたことだろう。二人の存在なくしてこの映画はありえなかった。

州外での暮らしも5年を過ぎた頃、ミルドレッドの「故郷へ戻りたい」という思いは一通の手紙となってケネディ司法長官のもとに届く。幾つかのリレーを経て、歴史はいよいよ動いていくのだ。だが公民権運動に沸いた激動の60年代においてもラビング夫妻の基本的な姿勢は変わらない。愛する家族と一緒にいたい、ただそう願い続けるだけ。そんなごく普通の夫婦によるシンプルな愛の物語だからこそ、私たちはこれほど深く魅了され、彼らを慈しまずにいられないのだろう。久々に人間の正の側面が伝播していく光景に出会えた気がした。観ている側にも穏やかな愛が、やさしく広がっていく名作である。

牛津厚信

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