わたしは、ダニエル・ブレイク : 映画評論・批評

わたしは、ダニエル・ブレイク

劇場公開日 2017年3月18日
2017年3月7日更新 2017年3月18日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

みごとな直球玉が、観客の心にずしりと響く

ケン・ローチが初めてメガホンを握ってからほぼ50年。これほど一貫した姿勢と映画作りのスタイルを保っている監督も珍しい。それだけにともすればマンネリになりがちなところを、ほぼ毎回ストライク・ゾーンに決める力量たるや、驚くべきものがある。昨年のカンヌ国際映画祭で、キャリア二度目となるパルムドールをさらった本作は、とりわけみごとな直球玉だ。

英国北部の工業都市ニューカッスルを舞台にした、心臓の発作に見舞われ大工の仕事を続けられなくなったダニエルと、彼がたまたま知り合ったふたりの子供のシングルマザー、ケイトの物語。それぞれ国の援助を必要としているにも拘らず、お役所的な複雑なシステムや理不尽な対応がそれを阻む。日々切迫していく彼らの姿を通してローチは、実直な人間が生きられない社会とは、いったい何なのかということを問いかける。あくまでリアリスティックで抑えたトーンの奥には、彼の煮えたぎるような怒りが潜んでいる。

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ローチの錬金術はしかし、それを声高なメッセージとして訴えるのではなく、日常のありがちなシチュエーションやディテールの積み重ねによって観る者の共感を誘い、このささやかなドラマに引き込む点にある。たとえばコンピューターなど使ったこともないダニエルが、必要に迫られ初めてマウスの使い方を学ぶシーンや、思いあまって壁に落書きをする場面などは、思わず笑ってしまいながらも胸を突かれるに違いない。観ているうちに我々は、彼らに感情移入するとともに、この物語がだんだん他人事と思えなくなってくるのではないか。ある日病で倒れたら、失業したら、子供をひとりで育てなければならなくなったら? 実際に多くのリサーチをしたというポール・ラヴァティの脚本は、突っ込みどころのない説得力に満ちている。

プロ、素人に拘らず、これ以上はないという適材をキャスティングするのもローチの慧眼だ。本作の切り札と言えるのが、ダニエル役のデイヴ・ジョーンズ。どこにでもいそうな労働者の佇まいでありながら、チャーミングで人間味に溢れどこまでも誠実な、人としての正しさを滲ませる。

英国の良心を代表するローチの揺るぎない信念が、観る者の心にずしりと響く作品だ。

佐藤久理子

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