劇場公開日 2017年11月25日

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光(大森立嗣監督) : インタビュー

2017年11月20日更新
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殺意すら真っ向から受け止める 井浦新&瑛太の終わりなき道程

井浦新瑛太が初共演した「」が11月25日、全国公開される。「舟を編む」などで知られる三浦しをん氏の同名小説を、「さよなら渓谷」や「まほろ駅前」シリーズの大森立嗣監督が映画化した。離島で起きた殺人事件の現場に当事者として立ち会った幼なじみの少年少女3人。しかし、その直後の天災によって事件はなきものとなり、25年後、バラバラの道を歩んだ3人が思わぬ再会を遂げるというストーリーだ。日本映画界を代表する2人が互いのこと、新境地を目指した大森監督の演出術などを語った。(取材・文/平辻哲也、写真/江藤海彦)

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井浦演じる信之は25年前、恋人で14歳の美花(紅甘)が男に犯されているのを見て、男を殺害。その直後に離島を大津波が直撃。今は役所の職員として、妻子と平穏な日々を送っている。一方の瑛太は信之を兄のように慕い、激しい暴力を振るう父親を恐れながら生きる輔(たすく)役。輔は突然、信之の前に現れて、25年前の秘密をバラすと脅し、3人の運命は急展開を迎える……。井浦は「さよなら渓谷」、瑛太は「まほろ駅前」シリーズと、それぞれ大森監督作品に出演しているが、顔合わせは初めてだ。

「仕事、プライベートでもなかなか会う機会がなかった」と話す井浦。瑛太の出演作や雑誌などでのインタビュー記事は見てきたという。芝居によってカメレオンのように変わるが、瑛太個人の印象は変わらないという。

井浦「根っこのところがずっと感じたままの人でいられるって、すごく素敵なこと。全然ぶれてない、そのまんまでいる。大きいというか、もう底が見えない人だなあ」
 瑛太「僕って、すごいですねえ(笑)」
 井浦「先にハードルを上げておこうと(笑)」
 瑛太「共演の前に、食事に行かせていただいたんですが、新さんの言葉って、自分に全部返ってくるんですよ。こういうところを、俺は直さないといけないんだなあとか、もっと楽しんでいいんだろうな、人生って。共演にはすごく興奮しましたね。新さんのことを知りたいという気持ちが増しました。今、僕が伝えたいことが新さんの思いに届いたのか、今、返されたのか、っていうことがずっと連鎖していくというか……。そんな感情も思考も全てかき乱される感じがあるんです。新さんといるということで、どんどん恍惚の状態に入ってしまう。すごい」
 井浦「なんだか、僕が人の話を聞かない人みたいになっているけど、大丈夫?(笑)」
 瑛太「なんか異次元に連れてってもらえるんです」

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人々の共感を呼んだ「舟を編む」とは違い、圧倒的な暴力や人間の闇を描いた衝撃作。原作、脚本のどの部分に共感、魅力を感じたのか? 「光」とは何か?

井浦「暴力は肯定できるものではないし、共感できるものがすべて良いことじゃないと思いますけど、自分が(作品に)感じたのは、生命感です。作品の中で信之は死んだような顔をしていますけど、心の中はとても速く回転し動いている。輔が現れてから信之の心はものすごく生き生きしていた。津波が襲ってくる時も月の光が照らしていた。あの光って、静寂の世界に見えるけど、見方によっては、そういう光でさえも生命力に溢れている。光っていうのは、生命感や命の輝きみたいなものかなと感じました」
 瑛太「原作を読んでも台本を読んでも、『光はどこにあるんですか』って感じでした。このタイトルをつけた意図は何か、ずっと考えさせられました。でも、そういうことを超越しちゃっているというか、どう捉えても良いですよっていうのはあるのかな……あんまり難しいこと考えられないんですけども。生命力みたいなところから生まれてくるエネルギーみたいなものが光なのかな? 自分で言っていて、訳が分からなくなっちゃった(笑)」
 井浦「迷宮に入っていくよね。監督は取材の場で一緒になった時、『見る人たちに答えを預ける、渡すんじゃなくて、あなたはどうなんですかって力強く、挑発してるような作品なんだと思う』と言っていました。これにはドキッとしました」

大森監督のキャスティングは「役に合うか」よりも、「この人と仕事がしたいかどうか」が重要という。監督との話で、印象的な言葉はあるのか。

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井浦「『自分が今までやってきた映画作りを1回捨てて、作品に向き合おうと思っている』っていう言葉です。もうそれがきっと全てだ、って。自分も監督のテンションと同じくらいものを返し続けなければいけないっていう思いがありました。(試写が)始まった瞬間、僕、大笑いすることがあったんです。『いままでの大森作品でこんな始まり方はなかった』みたいなところから、(最後は)本当にそれをやってのけたんだなって思って、嬉しくてケラケラ笑ってしまいました」
 瑛太「僕、(監督から)何も言われてないですけど……。無言で圧をかけられているのか……分からないですね。でも、ワンカットワンカットに対しての覚悟みたいなものは感じました。僕は思考したり、感情をこうしなきゃいけないっていうことにさえも、いかせてくれないっていうか、ある意味、本能だけでやっている感覚でした。特に新さんとのシーンは。だから、試写を見た時に、(自分を見て)コイツ誰だって感じでした(笑)」
 井浦「変な生き物が映っちゃって、と?」
 瑛太「みたいな感じですね。それが演出だったんじゃないかなって気もします。『まほろ(駅前シリーズ)』の時は、ややこしい松田龍平もいたんで(笑)、(演技について)たくさん話しました。龍平は結構、ディスカッションするんで。『もっと来いよ』と言うから、僕は『監督、どうしますか?』って(笑)」
 井浦「ちゃんとしてるね」
 瑛太「そういうのが今回一切なかった」
 井浦「怖いですよ、そういうのが一番。結局、圧かけられて、ウチらは恐怖の中から出てきちゃったものが映ってるだけ、みたいな状況だったりしますから。監督は、速攻見抜く方ですし、お互い、本能でやっていた感じはあると思います」

井浦によれば、大森監督は積極的に俳優に対して、細かく注文をつけるタイプではない、という。

井浦「こっちから行かない限り、自分からは(俳優側には)来ないです。きっと今回の作品は、なおさら。僕は、何かあった時に『わからない。どういうことなんですかね』と言ったりするから、『新、俺もわかんねえ』みたいな……。そんなやり取りをしているだけで、なんか安心しました。分からなくてもいいんだなって。『どんどん分からない方向に行って良いですよね』って話をしました」

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平穏に暮らしていた信之は突然、目の前に現れた輔に対して、戸惑う。輔は、信之の気を引くため、その妻(橋本マナミ)や過去を封印して、女優として活躍する美花(長谷川京子)に近づく中、信之は新たな暴力に目覚めていく……。大森監督は登場人物の心情を単純に言葉にすることはない。画面には、心のざわめきや得体の知れない緊迫感が漂う。

井浦「演じていくうちに自分の中で押し殺していた暴力性みたいなものが解放されていった。息をしているだけでも周りの人たちにすごい攻撃をしているような感情で、自分でも怖いものがありました。それを現場まで隠しながら持っていくのが大変でした。撮影の3週間を過ごすのはしんどかった。それがあるから、後で楽しさ、心地良さになっていくものなんですけどね……」

そんな闇を持ったキャラクターを演じた場合、現場、プライベートでのオン、オフの切り替えは大変ではなかったか。

井浦「どの役も自分じゃないけど、結局は自分なんです。それが、人を殺める役だったとしても。どれも自分から出てきちゃったものだから、それを分けてしまうのが一番心に負荷をかける。1回オフにしたものをオンにするっていうことの方が疲れるんです。だったら、少し沈めておくだけくらいにする方がいいかな、と。演じている時は自分の中で暴力性、凶暴性みたいなものがバンバン出てきて、普段やらないようなことがやりたくなってしまう自分がいました。それは現場だから解放できているんです。現場の方が楽な場所だったりするんです」

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終盤、信之が輔の首を締めるというシーンが登場する。ここは脚本になく、井浦が直前、監督と相談の上、本番で加えたアドリブだったという。

井浦「(瑛太が)殺して欲しそうな顔をしていたから。だから、リハーサルをやった時に、『シャベルでボコボコ殴る前に、殺しちゃって良いですか?』って監督に聞いたんです。『それは、ちょっとやめて』と言われたんですけど(笑)。本当になんだろう、この気持ちは……。早く輔を殺してあげたいなあって。そういう顔を目の前でされて、そのまま本番に流れました」
 瑛太「来たか! って感じでしたね。それはやっぱり、(演じていて)楽しかったです。やっぱり本番は一番自然な感じで迎えたいですし、何が起きても良いように準備しておかない、と。そういうことを抜きにして、井浦新すげえって思いますし、本当に殺されるかと思いました」

念願の初共演を果たした2人。共演後も同じ時間を過ごし、さらに刺激を受けあっているようだ。

瑛太「新さんが、生活の中にも、僕の中にも入ってきちゃって、新さんだったらどうするかな?とか考えちゃったりしましたね」
 井浦「お互いにまだ分かり合えてないところがいっぱいある。これだけお互いに体も心も削りながらやってみたけど、それでもまだある。全然まだ先が見えないと感じているので、だからこういう風にワクワクさせられているんだな。まだ、終わってないなあ」

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