劇場公開日 2017年6月3日

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武曲 MUKOKU : インタビュー

2017年6月2日更新
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綾野剛&村上虹郎“強さへの渇望”のなかで互いを求め合った「武曲」

強さを求めるあまり自分を見失い、それでも剣を握ることをやめなかった――。熊切和嘉監督作「武曲 MUKOKU」(6月3日公開)で、綾野剛村上虹郎が体現したものは、剣道を通して出会った2人の男に芽生えた“強さへの渇望”。そして「本当の強さとは何か」という葛藤。綾野は父親から殺人剣を叩きこまれた主人公・矢田部研吾、村上は天賦の才を持つ高校生・羽田融に扮した。剣を通して幾度も“会話”をした2人が、己の剣に込めたものとは。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

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主演・綾野と熊切監督が「夏の終り」(2013)以来、約3年ぶりにタッグを組み、芥川賞作家・藤沢周氏の小説を実写映画化。ある事件以来、自堕落な日々を送っている剣道5段の男・研吾(綾野)が、ラップの作詞に夢中な高校生・融(村上)との出会いを機に、再び剣の道を歩み始める姿を描く。

綾野は熊切監督との再タッグを「精神状態を含め、全てが鮮度の高い状態だった。良い状態で現場に入れました」と振り返る。「『夏の終り』が終わって以降、熊切監督は会う度に『また必ずやろう』と声をかけてくださったので、(再タッグを組む)意識は常に持っていました。だから、作品に臨む覚悟というような重いものはありませんでした」。その言葉の通り、綾野は撮入前に剣道世界チャンピオンらと2カ月に及ぶ猛特訓を行い、精神及び肉体面の準備に余念がなかった。

一方、熊切組は初参加の村上は「『いつか(熊切監督と)やりたい。その作品が1番好きな熊切監督の作品になるといいな』と思っていました。それが叶いました」とニッコリ。そんな念願の熊切作品で与えられた役は、自他共に認めるはまり役だった。歌手のUAを母に持ち、剣道経験者であることについて触れ「(融役は)『僕がやりたい!』という思いはありました。剣道や音楽が身近であるという、自分の性質もありますし」と明かした。

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剣道未経験の綾野は、特訓を通して、剣道の奥深さを知ったという。「限りなく芝居に近いです。佇まいで相手を封じて、目で相手を殺すというのは、芝居に通じるところがある。剣先をこつこつこつこつと合わせ、お互いの線(正中線)を取り合うのが会話なんです。セリフの応酬なんです。線を取り合っている最中に、すぱっと相手の懐に入ろうとする勇気というのは、ある種感情なので、そういった意味でも本当に芝居に近い」。

逆に初段の腕前の村上には、剣道未経験の融の“拙い動き”をどう表現するのかという課題があった。「下手に見えるよう木刀を振るのは難しかったです。コーチが現場にいてくれたので、『今の動きは大丈夫?』と毎回聞いていました。僕はすごく剣道が上手いわけではありませんが、やっていた人とやっていない人の動きはまったく違う。剣道経験のない熊切監督に『ちょっとこれ、振ってもらえませんか?』と言って木刀を振ってもらい、『下手な人はこうやるんだ』という感じで見せてもらった記憶があります」。

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やがて2人は、“剣による対話”のシーンに挑むことに。殺人剣をふるうことしかできなかった研吾の父・将造、そんな父の亡霊にとらわれ続けた研吾、将造と同じ殺気をまとい、命の駆け引きを切望する融。原作小説では、剣道とは病であり、魔物であるといっている。剣道が底知れぬ武道であることがわかるのが、研吾と融が雨の中で剣を交える場面だ。

綾野「序盤の剣道場のシーンは暴力ですが、雨の決闘は、お互いが求め合っている。そこには心だとか、考える余地はなく、ただ肉体と肉体がぶつかり合っている。とても本能的。ある種、性的描写のシーンと変わらないと思っています」

村上「決闘のようなケンカです。倒しにいくぞ。負けるかもしれないけど、やらなきゃいけないんだという」

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同シーンで、豪雨に打たれながら10分間に渡って闘志をぶつけ合った2人。そこには、演じた当人たちにしか分からない思いがあった。綾野は「結局、研吾も融も渇望から始まっているんです。毎日圧倒的な渇望の中にいた。そんななか、あのシーンでは残酷なほど雨が降っている、雨という“圧倒的な潤い”のなかで求め合った。まるでラブストーリーみたいな。彼(村上)はある種、ヒロインを演じてくれました」と述懐する。

剣によって宿命の対決へと導かれた研吾と融は、互いのなかに何を見出していたのか。キャスト2人がたどり着いた答えは、実に普遍的なものだった。

綾野「研吾にとってと融は“生”です。鼓動です。止まっていた心臓が、彼に会ったことで動き出した」

村上「融にとっての研吾は、生きるという“生”。そして、“気づき”だと思います。融は自分が人とは違うということを自覚し、孤独になってしまっていた。でも、矢田部研吾という人に出会ったことで、自分には存在意義があると気づくんです」

綾野「互いに渇望を埋め合っているような関係というのが、正しいのかもしれない」

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