オン・ザ・ミルキー・ロード : 映画評論・批評

オン・ザ・ミルキー・ロード

劇場公開日 2017年9月15日
2017年8月29日更新 2017年9月15日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

これぞクストリッツァ。人間と動物たちと銃弾と音楽が一体となって暴走していく

東欧のどこか。内戦の最中の田舎の村。ピーカンの空の下をガチョウの群れが横切り、血が溜まったバスタブに飛び込んで寄って来た虫をついばむ。動物と人間、長閑と悲惨、死と生命がごちゃ混ぜになった陽気なカオスが冒頭から繰り広げられると、ああ、エミール・クストリッツァの映画だなと思う。

いや、これは90年代にカンヌのパルムドール受賞作「アンダーグラウンド」で脳天をつんざく衝撃を受けたり、「黒猫・白猫」や「ライフ・イズ・ミラクル」の破天荒なマジックリアリズムに魅了された人たち限定かも知れない。2008年のドキュメンタリー「マラドーナ」を除けば「オン・ザ・ミルキー・ロード」は9年ぶりの新作長編。若い人たちの多くは旧ユーゴスラビアが生んだ天才監督クストリッツァのことを知らないだろう。

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わかりやすく「ジョニー・デップが惚れ込んだ」みたいな売り文句で紹介することもできるのだが、正直そんなスケールで収まる人ではない。無理を承知でクストリッツァ作品を定義するなら《戦争で引き裂かれた大きな哀しみを、あふれ出すバイタリティで包んでしまうイマジネーションとエネルギーの塊》である。「オン・ザ・ミルキー・ロード」には男女のラブストーリーという大きな軸があり、ラストも切ない悲恋物語に収束していくのだが、人間と動物たちと銃弾と音楽が一体となって暴走していく痛快さは、決して他では味わうことができない魅力だ。

主演はクストリッツァ自身とモニカ・ベルッチ。クストリッツァは「サン・ピエールの生命」「フェアウェル さらば、哀しみのスパイ」などで名優っぷりを発揮してきたが、自分の長編に主演するのは初。またベルッチのような国外のスターを起用するケースも珍しい。とはいえクストリッツァは62歳、ベルッチは52歳。初々しい純愛を描いてはいても苦い想いを山ほど積み重ねてきた人生の年輪が横たわり、ユーモアと背中合わせな悲哀の濃さが過去作よりはるかに強い。

実は本作の物語はクストリッツァが2013年に発表した短編小説集「夫婦の中のよそもの」の一篇「蛇に抱かれて」と酷似していて、ほぼ原作と考えていいように思う。ただ短編小説では主人公カップルは若くも年寄りでもなく、悲惨な過去も描かれることはない。クストリッツァとベルッチが演じることで生まれた小説と映画のズレが、双子のようでいながらも別種の味わいを生んでいるので、興味の湧いた人にはぜひどちらも楽しんでいただきたい。

村山章

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