劇場公開日 2017年4月1日

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暗黒女子 : インタビュー

2017年3月31日更新
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飯豊まりえ「暗黒女子」で見せた女優としての“進化”と“真価”

美しい花には棘がある――はちきれんばかりの笑顔が眩しい飯豊まりえは、清水富美加とダブル主演を飾った「暗黒女子」の役づくりで、この言葉を完璧に体現してみせた。「薔薇」というキーワードをもとに創出したキャラクターは、飯豊自身が放つ煌めきも相まって、そのドス黒い本性に思わず身震いするほど。自身に宿らせた“悪の華”と真っ向から対峙した彼女にとって、本作は“進化”と“真価”を見せつけた女優としての記念碑的作品となった。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

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嫌な読後感を抱くミステリーを指す“イヤミス”界に旋風を巻き起こした秋吉理香子氏の同名小説を、飯豊、清水、清野菜名平祐奈玉城ティナ小島梨里杏の共演で実写映画化。聖母マリア女子高等学院のマドンナ・白石いつみ(飯豊)が、謎の死を遂げる。いつみが主宰していた文学サークルを引き継いだ澄川小百合(清水)は、自作の物語を朗読する定例会を開催。同サークル員たちが「いつみの死」をテーマに、真実と嘘、秘められた悪意が入り混じった作品を発表していく。

文学サークル員たちが執筆した作品は、生前のいつみの姿が明かされ、そして彼女を死に追いやった人物を告発する内容。だが、それぞれのストーリーに大幅な矛盾が生じたことで、犯人の特定は混迷を極め、さらにいつみの人物像は曖昧になっていく。サークル員たちそれぞれが紡いだ物語の中で、全く別の顔を見せるいつみ役に挑戦した飯豊は、女優人生の中で新たな取り組みを行っていた。

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飯豊「まず初めに相関図をつくったんです。図の中心にいつみを配して、この子の前ではこういう印象を抱かれたいという風に整理していきました。それぞれに『太陽のように』『ちょっぴりお姉さん』『セクシーに』『リーダーっぽく』と記載して、その上で裏の顔の見せ方も考えたんです。普段は台本にあまり書き込まないタイプなんですが、今回相関図をつくっていなかったら大変なことになっていたはず。台本は真っ黒でぐちゃぐちゃ。私にとって初めてのアプローチだったんです」

メガホンをとった耶雲哉治監督とは「MARS(マース) ただ、君を愛してる」(2016)に続くタッグとなったが、「初日からクランクアップまでずっと泣いてました」と述懐するほど、追い込み型の演出を施されたようだ。だが「『MARS(マース)』の時は細かい指示があったんですが、今回は『自分で考えてください。考えてくれないと撮っていても楽しくない』と言われていました」という言葉が耶雲監督の思いを裏打ちする。“飯豊まりえ”という女優の力を信頼しきっていたからこそ、作品のクオリティを高めるための手厳しい演出に臨めたのだ。

撮入2週間前からは、耶雲監督と共にいつみという人物を深く理解するべく、猛特訓を重ねていった。そこで重要になったのが、前述の「薔薇」というキーワード。「美しくて凛として綺麗だけど、裏の顔には棘のような怖さがある『薔薇』のような人物」を求められ、さらに、学園の絶対的なマドンナとして君臨するため「クイーンビー(女王蜂)」というイメージも自身の中に取り入れた。

そして、セリフの言い回しにも細かなニュアンスを付け加えていく作業も行った。「例えば『嫌だ』という3文字のセリフでも、どれだけ憎たらしく言えるかどうか悩みました。このセリフへ向かうために、その前の演技では怖さを抑えつつ、徐々に相手を追い詰めようという余裕を佇まいに持たせたり。あえて優しく言うことで生まれる恐怖についても考えていましたね」

まさに全身全霊という表現が相応しいほど、自身の内にはないおぞましいキャラクターの創造に尽力した飯豊にとって、劇中ではいつみの“相棒”のようなポジションで怪演を見せる清水との共演は「(撮影前から)一緒にお芝居するのがすごく楽しみだった」と語るほど、待ち望んでいたものだった。

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飯豊「富美加ちゃんも私との共演を楽しみにしてくれていたみたいで、それを知った時、本当に嬉しかったんです。私が切羽詰まっている時には笑わせてくれたり、ただ現場にいてくれるだけで安心しました。演技についての相談はあまりしなかったんです。それぞれ自分のやるべきことをやるだけ。芝居をする中でお互いに“スイッチ”が入ればいいかなと考えていたんです。富美加ちゃんにも演技プランがあったはずだし、その点はきちんと信頼して撮影していましたね」

“何が本当で、何が嘘なのか”という疑念を常に抱かせる物語はラスト24分、予測不可能な方向へと舵を切る。その大きな転換点以降に発露する飯豊の存在感は、まさに圧巻の一言。瞬きを許さないほどのパワーに満ちあふれており「役どころの内面をくみ取って、紐解いていく作業を1から10まで隙間なくやった」という努力が確実に実を結んでいるのだ。

「笑顔が似合う明るいキャラクター」も積極的に演じていきたいと語りつつ「(本作の撮影を通じて)メンタルもかなり強くなったので、次からはもっと憎たらしい女の子を演じられるかもしれない」と悪女キャラにも意欲的な姿勢を示す。女優として確かな“進化”を成し遂げ、美しき悪の存在という役どころで新たな“真価”を表出させた飯豊の快進撃は今後も続くだろう。

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