劇場公開日 2017年1月28日

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「売女であることを引き受ける」アンチポルノ おかずはるさめさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5売女であることを引き受ける

2017年12月3日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

生殖機能が影響して、女性の身体やそれから発するオーラが男性を魅了する。それが前提となって社会が機能していることは誰も否定できない。おそらく多くの女性は、成長過程のどこかでそのことに気がつき、その理を引き受けて自分の人生を切り開いてゆくのだろう。

同じ台詞を言っていても、典子と京子とでは説得力が違う。真打と前座が同じ噺をしても、観客に伝わるイメージが全く違うのと同様に。既に売女の覚悟がある典子に対して、既に成熟した身体を手にしながらその覚悟が定まらない京子の台詞は全て上滑っている。

彼女の世界には父親以外に男性が現れない。彼女の認識する世界の外に男性(映画スタッフ)がいるが、彼らと対等に渡り合えない。男性と対するためのカードを持ちながら、コントロールできない(或いはコントロールすることを恐れている)からだ。

底が見えない女性の本質に気が付き始め、それに恐怖する少女の感覚を、この映画は疑似体験させてくれる。

冨手麻妙の演技は筒井真理子のそれと比べて拙い。先述した映画のテーマを踏まえれば、女優として成長過程にある未熟な演技だからこそ、観客に感動が届くのだと思う。筒井真理子の達者な演技との差分が大きいほどに。監督の演出はキャスティングから始まっているのだ。

冨手麻妙の時間がこの映画に凍結して、保存されている。彼女のキャリアが積み重ねられ、いつかこの映画を懐かしむときが来ることを願ってやまない。

おかずはるさめ