劇場公開日 2016年11月25日

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五日物語 3つの王国と3人の女 : 映画評論・批評

2016年11月22日更新

2016年11月25日よりTOHOシネマズ六本木ほかにてロードショー

再解釈のプリンセス物語にはない重み。おとぎ話のオリジンを生々しく映像化

十七世紀のナポリで書かれ、後にグリム童話をはじめとする多くのおとぎ話のオリジンとなったジャンバティスタ・バジーレの「ペンタローネ(五日物語)」。マッテオ・ガローネはその世界を、イタリアの古城を使った撮影とクリーチャーによって蘇らせようとした。(撮影前のアクシデントによって損なわれた海の怪物のクリーチャーの動きが鈍いのはご愛嬌だ)その感触は生々しく、シュガーコーティングされていないグロテスクな童話の原型にふさわしい。しかし、不思議にモダンでもある。

ディズニーの新しい実写版「シンデレラ」等、新解釈によるプリンセスの物語は最近の流行だが、現代の女性の問題と呼応する物語はむしろ、一番古い形のオリジナルのおとぎ話に潜んでいるかのようだ。母性を過信して本来の自分を見失う母親や、永遠の美や若さに固執するあまり、自分を傷つける女たち。「五日物語」で取り上げられているストーリーは道具立てを変えれば、いくらでも現代の物語になりうる。

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中でも白眉は、父親の不手際によって人里離れた断崖の洞穴に住むオーガ(鬼)と結婚することになったハイヒルズ国の王女の物語だろう。恋を夢見る十代の王女ヴァイオレットを演じるベベ・ケイブがファニー・フェイスで、いかにも欲求不満のティーンエイジャーなのがいい。「美女と野獣」をはじめ父親の過失を罪のない娘が償うところから始まるおとぎ話は沢山あるが、その源流であるこの話は過酷だ。オーガの正体が心優しき紳士だという展開もなく、危機一髪のところで王女を救い出してくれる騎士もいない。ヴァイオレットは薄汚いオーガの住処に幽閉され、陵辱される。CGではない本物の断崖絶壁に作られた住処から這い出してくるヴァイオレットの姿には、果てしない絶望感が漂う。それこそが、家庭の事情によって他人に売り渡された少女たちの真実なのである。そこから逃げ出すには、恐ろしい暴力に直面するしかない。男たちによって尊厳を奪われた少女が自分自身を奪還するストーリーには、再解釈のプリンセス物語にはないずっしりとした重みがある。

山崎まどか

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