劇場公開日 2017年12月1日

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鋼の錬金術師 : インタビュー

2017年12月11日更新
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「鋼の錬金術師」実写化は“パンドラの箱”なのか? 山田涼介&本田翼が語る“覚悟”

「人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。何かを得るためには、それと同等の代価が必要になる。それが錬金術における等価交換の原則だ。そのころ僕らは、それが世界の真実だと信じていた」(第1期アニメ版オープニングより)――荒川弘氏による漫画を映画化した「鋼の錬金術師」が、12月1日に公開される。全世界でシリーズ累計発行部数7000万部超を誇る人気漫画の実写化に、主演・山田涼介は「パンドラの箱」と表現し、胸中を率直に吐露した。日本映画史上最大規模のビッグプロジェクトとなった今作で、どのように取り組み、何を目指したのか。山田とヒロイン役・本田翼に話を聞いた。(取材・文/編集部)

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物質を変化させる“錬金術”が中心の世界を舞台に、失った母を生き返らせるため人体錬成の禁忌を犯したエド(山田)&アル兄弟が、絶大な力を秘めた賢者の石を求め旅する姿を描く。原作は「少年ガンガン」で2001~10年にわたって連載。最終話が掲載された10年7月号は発売直後から各地で売り切れが続出し、手に入らなかった読者があまりにも多かったため、同年9月号に最終話が再掲載される異例の措置がとられるなど、その人気がうかがい知れるエピソードは枚挙に暇がない。

原作連載当時、「リアルタイムで読んでいた」という山田と本田。ファンの熱狂を肌で感じるとともに、自身も強く惹かれていた作品だけに、実写化のオファーには何よりも先に“畏怖”が胸に去来した。山田は「パンドラの箱を開ける感覚がありました」と告白する。パンドラの箱とは、ギリシア神話に登場するあらゆる災厄を収めた箱だ。「正直、やりたくない」。そんな気持ちが、素直な感想だった。

しかし、メガホンをとった曽利文彦監督が用意した“あるもの”が、覆いかぶさる不安を一息に吹き飛ばした。練成陣のエフェクトや、アルが動くビデオコンテだ。参考用だがクオリティは高く、度肝を抜かれた山田は決心を固めていく。そして何より、俳優としてのプライドが強い動機となった。「これだけの大作で、僕を選んでくれた意味が絶対にある。何より僕が断ったことで、この役が他の誰かに渡ることが許せなかったんです」。自然と、決意の言葉が口をついて出た。

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兄弟を見守る幼なじみ・ウィンリィ役の本田も、思いは同じだった。「あのビデオコンテがそのまま映画になっても、すごい出来栄えになるというのが純粋な感想。出演する一番の動機でした」と振り返り、「ウィンリィは原作ファンみんなに愛されていますし、やはりプレッシャーはありました。でも『翼ちゃんの明るさが合っている』と言われたんです。自分のパーソナルな部分を見て依頼してくださったことを知り、覚悟を決めました」と説明する。

本田が語るように、配役はビジュアルや性格などの“パーソナルの資質”が重要視されていた。ゆえに大幅な役づくりは要求されなかったそうだが、それは信頼のあらわれであり、同時に「自分で考え、質を上げる」という試練でもあった。加えて原作とアニメシリーズの完成度が、2人にとって高いハードルとなった。

「原作もあるし、アニメでは声も当てられているから、キャラのすべてがすでに出来上がっているんです。そのうえで僕らは演じる。小手先の芝居では通用しないと感じていました」。山田は考えぬいた末に「兄弟愛」という突破口を見出す。人体錬成の代価として身体ごと“持って行かれた”弟アルに対するしょく罪と愛は、エドを駆動させる重要なエンジン。「何があっても弟を最優先で考える。常にその気持ちを持ち、絶対に忘れませんでした。結果、自分では合格点を与えられるかな、と思っています」と誇らしげに話す。

撮影/江藤海彦
撮影/江藤海彦

一方で本田は、“幼なじみ感”を胸に留めていた。「いかに2人の素を出せるか」をテーマに接することで、ことあるごとに言い争うが、お互いを心底気にかける様子をナチュラルに表現している。

2人の出会いは意外な形だった。山田が「僕が1人で行き、カウンターに座ってゲームをする食事屋があります。実は、初対面はそこでなんです」と切り出せば、大のゲームファンである本田といえど、さすがに「食事屋でゲームする人って、います? びっくりしましたよ」と吹き出す。互いをいじり合い笑う姿からは、役を超えた波長の一致を感じる。

山田「カウンターでイヤホンして完全シャットアウトしていたら、後ろから本田さんが『今度ウィンリィ演じるんで、よろしくお願いします』。そこで、性格もウィンリィなんだと思った。お互いゲーム好きで話も合うんですよ。あと僕の身長をいじってくる女優さんは初めてです」

本田「最初は山田くんだと気がつかなかったし、ネクラな人なのかと思った(笑)。『身長低いし、エド役にピッタリ!』と言ってたよね(笑)」

撮影/江藤海彦
撮影/江藤海彦

山田「やめなさい(笑)! イタリアでは10数時間汽車に乗り続ける撮影があって。イスが固いし、トイレもないしですごく過酷でしたが、本田さんと一緒で楽しかった」

また敵対するエンヴィー役の本郷奏多は、9月に実施された「鋼の錬金術師展」セレモニーで「漫画ではデフォルメされライトに感じる部分が、実写では重く感じられる」と言及していた。劇中、タッカー(大泉洋)との出会いとてん末は直視できないほどの悲壮感があふれ、エドにふりかかる試練もまるで容赦がない。そんな物語にあって、ウィンリィの存在は雲間から差し込む光のようだった。

本田が「曽利監督とは『物語を照らす存在に』と、最初から話し合いをしていました」と述べれば、山田も「ウィンリィがいなかったら、グッと暗い気持ちになっていただろうね。本田さんは底抜けの明るさがあって、現場を照らしてくれるし、疲れていることを忘れさせてくれる」と感謝をにじませた。

製作の日々、内なる“真理の扉”に相対し続けたが、そのことが原作への愛を一層深めるきっかけにもなった。座長としてけん引した山田は「原作自体が、人を引き寄せるとんでもない力を持っている。だから、皆とてつもない力を注げるんですよね。映画も、出来上がりを見てもっと深い愛を注ぎたくなった」と繰り返し愛情を示し、本田も笑顔で大きく頷く。

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神話では、すべての災いが飛び出した後、パンドラの箱の底にはひっそりと“希望”が残っていたという。山田と本田は希望を温かく抱きあげ、大きな自信へと等価交換することができたのだろう。キャスト・スタッフの愛情も重圧も苦悩も歓喜もすべて詰め込んだ、彼らの「鋼の錬金術師」が幕を開ける。

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