劇場公開日 2016年12月1日

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マダム・フローレンス! 夢見るふたり : インタビュー

2016年11月29日更新
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“生ける伝説” メリル・ストリープが語る女優人生と生きる喜び

3度のアカデミー賞受賞を誇るハリウッドの生けるレジェンド、メリル・ストリープが、主演最新作「マダム・フローレンス 夢見るふたり」で挑んだのは“最悪の歌姫”と称された伝説の歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンス。10月末、東京国際映画祭でのオープニング上映にあわせて来日したストリープが、女優人生と生きる喜びを語った。(取材・文/編集部、写真/YOSHIKO YODA)

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音楽をこよなく愛し、ニューヨークの音楽界をパトロンとして支えた資産家のフローレンスの夢は、米音楽界の最高峰カーネギーホールで歌うこと。ところが彼女は絶世の音痴だった――。歌手として喝采を浴びることを夢見るフローレンスと、あらゆる手段を駆使してその夢を支えるパートナーのシンクレア・ベイフィールド(ヒュー・グラント)、そして伴奏者コズメ(サイモン・ヘルバーグ)を巻き込んだ“三人四脚”の道のりを、「クィーン」「あなたを抱きしめる日まで」のスティーブン・フリアーズ監督が描いた。

「マンマ・ミーア!」「イントゥ・ザ・ウッズ」と美声を響かせてきたストリープは、音痴の歌手を演じるにあたり、オペラのコーチのもとで2カ月にわたりアリアを正しく歌唱する特訓を積み、最後の2週間で音程を外す練習をしたと明かす。劇中では、ただの音痴に終わらず、希望や高揚感をもたらすフローレンスの歌声の本質を表現しているが、「まったく難しくなかったわ」とこともなげに語る。

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「フローレンスはわたしの子どもたちを連想させたの。子どもたちは小さい頃、よく自宅で家族のためにショーを開いていたのだけど、本当に真剣で気持ちがこもっていたわ。何かになりきることが、好きで、好きでしかたなくって、喜びに満ちあふれていたのよね。わたしたちは誰しも、子どもの頃にはそういう気持ちを持っているけど、大人になるにつれて忘れていってしまう。だけど、フローレンスは、偉大な歌手になれるっていう夢を捨てずに持ち続けていたの」

アカデミー史上最多ノミネート数を誇るストリープだが、実は偉大な女優を夢見て演技の世界に飛び込んだわけではなかった。「若い頃は、演じることに重要性を感じていなかったのよ。そこまで強い信念がなく始めてしまったから、どこかうぬぼれというか、実体がないように思えたのだけど、演じることは大好きだった」といたずらっぽく笑う。「時間が経つにつれて、ほかの役者たちの仕事ぶりを見て、演技への理解が深まっていたの。重要なことなのだって気付いたのよ。演技に身を捧げてもいいのだわって(笑)」と、自らの“進化”を振り返った。

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そして、歌う喜びを生きる糧にしてきたフローレンスに対し、演技に身を捧げるストリープにとって家族と音楽は欠かせない存在だという。「わたしが喜びを感じるのは、ちょっとしたことなの。子どもたちが集まる日に食事をたっぷりと作り終えたときや、全員そろって食卓を囲んでいるときに幸せだなと思う。そして、子どもたちを送り出してドアを閉めたときにだって、すばらしい気持ちになるわね。田舎の家に行くと湖や山があって、小川のせせらぎに耳をすませて静けさを楽しむこともあるし、コンサートに行って音楽を聞くのも好きよ」

日々のささやかな瞬間に喜びを見出せるからこそ、どんな役柄もこなし、67歳を迎えてなお、第一線で活躍しているのだろう。言葉に、目の輝きに、何気ない手のしぐさに、何事も楽しむスピリットがあふれ出る。「演じているのはとにかく楽しいのよ、遊びのような感じだから。クリエイティブな人生は、けっして終わることもないでしょ。年齢を重ねるにつれ、知識も増えるから、伝えたいことも増えていくのよ」。ますます創作意欲がみなぎるストリープは、これからやりたいことは?という質問に、テネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」から「I have always depended on the kindness of strangers(わたしはいつも他人の優しさに頼ってきた)」と引用し、生涯現役を約束した。

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「映画製作や演劇っていうのは、常にコラボレーションの形をとるから、相手がいて初めて成立する。脚本家、監督、共演者が一緒になって、お互いに頼ることで成り立っているの。自宅でひとりきりでできることといえば、自分の能力を高めるために、詩を読んだり、音楽を聞いたり、演技以外の方法で人々と関わったりすることくらい。みんながいてこその総合芸術なので、わたし一人ではどうしようもない。だから、オファーがあるかぎり、演じ続けるわ」

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