マダム・フローレンス! 夢見るふたり : 映画評論・批評

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

劇場公開日 2016年12月1日
2016年11月30日更新 2016年12月1日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

ベテランらしいクリアな演出で描く、人々を魅了してやまないフローレンスの本質

無類の音痴でありながらカーネギーホールでリサイタルを行ったフローレンス・フォスター・ジェンキンスの実話は、先にフランスで「偉大なるマルグリット」として翻案映画化されている。あちらのマルグリットは夫に相手にされない寂しさから歌にのめりこんでいく設定だったが、こちら本家のフローレンスは内縁の夫に支えられて歌に励む。ちょっと風変わりな夫婦愛の物語になっている点が魅力的な映画だ。

内縁の夫のシンクレアは、英国貴族の庶子という胡散臭い触れ込みの男。財産目当てでフローレンスに近づいたことが容易に想像できる人物だ。が、フローレンスの秘書兼夫の「仕事」を長年続けた今の彼は、ある時は楯となりある時は毛布となってフローレンスを守り抜く。そんな良心に目覚めたチャラ男キャラをヒュー・グラントが絶妙な軽さで演じている。アカデミー賞の助演男優賞ノミネートは間違いないだろう。

画像1

もちろんフローレンス役メリル・ストリープもアカデミー賞候補当確の名演技。イケメンで女性にもモテるシンクレアが、7歳年上で美人でもないフローレンスを本気で愛する理由を万人が納得できるように体現している。その芝居の核にあるのはイノセンスだ。情熱があれば何でもできると信じきって歌手への道を突っ走るフローレンスの純真さ。それこそが、シンクレアから聴衆までを魅了してやまないフローレンスの本質だ。これを、スティーブン・フリアーズ監督は登場シーンの天使のコスプレに象徴させた。ベテランらしいクリアな演出だ。

もうひとつ、社会派で鳴らしたフリアーズらしさが感じられるのは、大衆がフローレンスを受け入れた背景をわかりやすく描きこんだ点だ。カーネギーホールのリサイタルが行われたのは第二次世界大戦中の1944年。戦争の醜さに疲弊した人々は、フローレンスの破天荒な歌声に現実逃避を求め、無邪気さに救いを感じた。この映画が描くフローレンスは、音痴であることを自分だけが知らない「裸の王様」ではなく、「癒し系歌手の元祖」だ。そのリスペクトの感情が、映画をすこぶる気持ちいいものにしている。

矢崎由紀子

関連コンテンツ

インタビュー

“生ける伝説” メリル・ストリープが語る女優人生と生きる喜び
インタビュー

3度のアカデミー賞受賞を誇るハリウッドの生けるレジェンド、メリル・ストリープが、主演最新作「マダム・フローレンス 夢見るふたり」で挑んだのは“最悪の歌姫”と称された伝説の歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンス。10月末、東京国際映...インタビュー

関連ニュース

関連ニュース

フォトギャラリー

DVD・ブルーレイ

映画レビュー

平均評価
3.4 3.4 (全80件)
  • 生きた証 美声で上手に歌うだけが、歌手のすべてではない。 ...続きを読む

    上みちる 上みちるさん  2017年6月25日 11:54  評価:3.0
    このレビューに共感した/0人
  • 偉大 メリル・ストリープって近頃は出演すればオスカーノミニーが当たり前状態で、どこかの国のカードゲームみたいな名前の大統領じゃないけど「過大評価」という言葉がチラチラ頭を過ったりもしてたんですけど、ほ... ...続きを読む

    ヨッシー ヨッシーさん  2017年6月11日 15:22  評価:4.0
    このレビューに共感した/0人
  • 音痴ですけど、何か? 小規模な公演をしながら、音楽活動に貢献し続ける富豪のマダム。 ソプラノ歌手を夢見る彼女は、音楽の殿堂、カーネギーホールでの公演を計画。 ところが彼女、とんでもない音痴だった! 超音痴ながらも、... ...続きを読む

    近大 近大さん  2017年6月9日 10:41  評価:3.5
    このレビューに共感した/0人
  • すべての映画レビュー
  • 映画レビューを書く
このページの先頭へ

最近チェックした履歴

映画の検索履歴

他の映画を探す

映画館の検索履歴

他の映画館を探す

特別企画

新作映画評論

  • ライフ ライフ 「エイリアン」の衣鉢を継ぐ宇宙サスペンスは、予想をくつがえすラストがトラウマ級!
  • オクジャ okja オクジャ okja 活劇の醍醐味に満ち、国境もジャンルも自在に超える少女と巨大怪物の大冒険
  • ヒトラーへの285枚の葉書 ヒトラーへの285枚の葉書 兵役で息子を失った夫婦の孤独な抵抗。映画化に至る経緯も奇跡的
新作映画評論の一覧を見る
Jobnavi