劇場公開日 2016年7月22日

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「自分の信念と誇りを書き続ける」トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分の信念と誇りを書き続ける

2017年5月11日
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鑑賞方法:DVD/BD

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赤狩りでハリウッドを追われながらも、別名で書いた「ローマの休日」「黒い牡牛」でオスカーを受賞した名脚本家ダルトン・トランボの伝記ドラマ。
ブライアン・クランストンがアカデミー主演男優ノミネート、キネマ旬報ベストテン4位。
当時のハリウッドの内幕、多くの映画人の実名登場など、興味深い一作。

未だハリウッドに深い傷痕残す赤狩り。
いつぞやのアカデミー賞で、エリア・カザンの特別名誉賞受賞の際、賛否分かれた反応は印象深い。
正直言うと…いや、恥ずかしながらと言った方がいいか、赤狩りについて他人に詳しく説明出来るほどよく知らない。
だから、どっちが良いとか悪いとか言えない。
それぞれに掲げた信念はきっと誇りあるものだったのであろう。
しかしながら本作は、波乱に満ちた一人の脚本家のドラマとして見応えあるものになっている。

嫌がらせに等しい弾圧。
不等な逮捕。
そんな逆境にもめげず脚本を書き続けた映画人根性。
が、映画に自分の名はクレジットされず、栄えある映画賞で称えられる事も無い。
それでも彼は脚本を書き続ける。

出所後は、B級映画の脚本で食い繋ぐ。
質より量。彼の芸術性は皆無に等しい。
次から次への安ギャラ短期間の要求もこなす。
それにしても、どれほどの脚本を手掛けたのか…。
再び映画の仕事に関わり忙しくなるが、家族との関係がぎくしゃくし始める。
娘の誕生日に言い放った言葉はかなり酷いもの。
偉大な脚本家の“陰”の部分も包み隠さず。

まだまだ後ろ指を指され、白い目で見られ…
仕事と家族の板挟みになっても、ひたすら自分の仕事に誇りを持って続けていれば、見ていてくれる人がいる。
カーク・ダグラスやオットー・プレミンジャーら破天荒な味方には胸打つものがあった。
政治的思想云々じゃなく、映画人としてのトランボの才能を欲したのだ。

映画と政治は密なものだ。映画を通じてメッセージを訴える。
が、政治的思想はまた別だ。ましてやそれで、芸術性や仕事の誇りを奪うなど言語道断。

ハリウッドを追われて幾歳月…。
“脚本:ダルトン・トランボ”
かの名作「スパルタカス」で再び自分の名前がクレジットされた時の彼の表情が忘れられない。

近大