劇場公開日 2016年4月8日

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「ちょうど、監禁されていた女子中学生が自力で逃げ出したニュースと公開...」ルーム kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ちょうど、監禁されていた女子中学生が自力で逃げ出したニュースと公開...

2016年6月30日
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鑑賞方法:映画館

ちょうど、監禁されていた女子中学生が自力で逃げ出したニュースと公開が重なった。
男が女(多くの場合、少女)を監禁する事件は、昔からどの国でも起きているようだ。
そして、誰もが気になるけれど触れてはいけないと思っているのが、解放された被害者のその後の生活だ。
本作はそこにスポットをあてて、興味本意ではなく、母として生きていこうとする強い女性の姿を描き出している。

娘の生還を喜びながらも、犯人に生まされた子供を素直に孫として受け入れられない父親。
娘がいなかった7年間に、妻と別れて家を出ている。
娘が子供をつれて戻った家には、妻(母)が新しいパートナーと暮らしている。

娘とその息子、別れた父と母、母の恋人。
複雑な関係と複雑な事情の5人が囲む食卓で、「子供の顔を見て」と、娘に迫られる父親。
この食卓のシーンには心が痛む。
言われれば言われるほど、孫を直視できない。
複雑な表情で見守る妻(母)の恋人は、いわゆる好い人なのだが、そこにいる誰とも血縁がない唯一の存在で、だから冷静に寛容に事態を受け入れている。
彼は恐らく、男として父親の心境も理解でき、娘の悲痛な訴えも理解しているのだろう。
幼い少年は、母と祖父の確執は理解できないだろうが、自分が要因になっていることは知っている。
このシーンでは、事件がこの一族全員を不幸に陥れたことを示している。

さて、映画は終盤で主人公が固い決心でマスコミのインタビューを受け、これを契機に母子が現状を乗り越えて幸せな生活に辿り着いたことを示唆する。
しかし、インタビュアーの質問こそが我々が訊きたい下世話な質問であることは事実だ。
あの少年は、いつか自分の数奇な出生の事実を知ることになるはずだ。
だとすると、本当のその後はどうなったのだろうか…

本作観賞後、関連性はない是枝監督の「誰も知らない」を思い出した。
キーワードは「母の愛情」。

本作の主人公は、過酷な状況下で産み育てた息子に限りない愛情を注いでいる。

「誰も知らない」でYOUが演じる母親は、子供たちを置き去りにして男に走った、とんでもない母親なのだが、子供たちと一緒にいる場面では母親の愛情を感じさせた。
そもそも3人の子供は世間に隠した子なのだから、この時点で母親失格なのだが、学校に行かせられない子供たちに勉強を教えている場面では、子供たちを愛している良い母親だった。
このシーンを観たとき、果たして普通の母親たちがこんなに子供たちに愛情を注いでいるだろうか…と感じたものだ。

本作で、監禁部屋の中で息子を教育している主人公の姿に、「誰も知らない」の母親の姿が、重なった。

だが、この2作品の母親は同じではない。
責任を放棄した母親と、子供を守り抜こうとする母親なのだから…。

kazz