父を探して

劇場公開日:

父を探して

解説

ブラジルのインディペンデントアニメ界の新鋭アレ・アブレウ監督による長編アニメーション作品。全編セリフなしで描かれ、普遍的な寓話でありながら、ブラジルの現実も切り取った作風で、2014年のアヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞にあたるクリスタルと観客賞をダブル受賞した。ある日、少年の父親は出稼ぎのためにどこかに旅立ってしまった。父親を見つけて、家に連れて帰ることを決意し、旅に出た少年を待ち受けていたのは、虐げられる農民たちの農村や、孤独が巣食う都会と、少年にとっては未知の広大な世界だった。少年は、行く先々で出会った大人たちや犬、音楽を奏でる楽隊の助けを得て父親を探していく。

2013年製作/80分/ブラジル
原題:O Menino e o Mundo
配給:ニューディアー
劇場公開日:2016年3月19日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第88回 アカデミー賞(2016年)

ノミネート

長編アニメーション賞  
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映画レビュー

3.0驚異の落書き

2023年4月11日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ノートの落書きのような手触りの絵が動き出すと、次から次へと予期せぬ描写で目を楽しませてくれます。それは、主人公の少年が父を探す旅にオーバーラップしているように感じました。今まで観たことのないような描写は、劇中でも描かれる万華鏡のように変幻自在で目が釘付けになりました。メイキング映像も興味深いです。CGが当たり前の時代だからこそ、手作りの温もりがよいですね。

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赤ヒゲ

4.0笛の音だけが

2022年12月5日
iPhoneアプリから投稿

アシンメトリーで縦横無尽な山村の世界と、シンメトリーで画一的な都市の世界。少年はその度合いが前者から後者へと移り変わる冷たいダイナミズムを肌のうちに感じながら冒険を続ける。またここには子供-大人という対比も込められている。少年は山村から都会へと進んでいくにつれ「父との再会」という子供らしい希望を徐々に奪取されていき、最終的には、電車から降りてくる無数の父との出会いを通じ、逆説的に「父はもうどこにもいない」という大人的な諦観へ辿り着く。多彩な音に彩られた反政府デモ隊は黒々とした政府軍の攻撃によって打ち破られ、農園や工場で機械のように働くことで生計を立てていた人々は本物の機械の登場によって駆逐されていく。極めつけは、子供が見ていた世界が実のところ彼の人生の軌跡そのものだったことが明かされるシーン。彼の冒険を支えくれた力なき青年も、弱り切った老爺も、すべては彼自身だった。つまりどれだけ厳しく冷たい世界であれ優しい誰かがきっと助けてくれるという一縷の望みさえもがここで寸断されるわけだ。最後に彼が思い浮かべるのはマッチが生み出す幻燈のように儚い空想図だ。そこには母がいて、父がいて、そしてあの聴き親しんだ笛の音がある。きっと笛の音だけがたった一つ残された希望なのだと思う。無数の声なき声たちがあの笛の音のもとに再び集まったならば、あるいは今度こそすべてを黒で塗り潰そうとする巨悪に立ち向かえるのかもしれない。

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因果

4.0幸福の美しさを忘れてはならない

2018年10月20日
PCから投稿

主人公の少年は可愛らしいが、どこか無個性に見える。というか、そう見えるように描かれている、と思う。ニュートラルな少年の視点から、社会の美醜両面が明らかにされていく。いわば、これは戯画化された現実社会像なのである。
 その点では、フレデリック・バックのアニメーションを連想した。色彩の鮮やかさや、テクスチャ感も通ずるかもしれないが、テーマやメッセージについても、結構近いように思われる。とはいえ、今作特有の個性は多分に見られ、驚かされた。

色鮮やかなものと黒っぽい無彩色なもの、世界の美の面と醜の面、それ等は割とはっきりと分かれ、強調されているかのように見えるが、実はあまりはっきりしていないようにも見える。
 例えば工場労働者の若者の、都市での暮らしは幸福だろうか、不幸だろうか。労働は過酷そうだが、人々が大勢集まる祭りといった、都市ならではの楽しみもある。
 大量生産の工程は非人間的でおぞましくも見えるが、人の叡智の偉大さととることもできる。
 どんな社会が幸福だろうか、それは明確に示されてはない。だが、はっきりと感じられる監督の意志は、幸福の美しさを忘れてはならないということ、そして現実に進行している悪い事態を軽視してはならないということだと見受けられた。

 実写のカットが唐突に挿入されているところは、一番に強烈だった。手書きの画風の中に現れる現実は異質で、グロテスクで暴力的だ。それ等はいうまでもなく、多くの現代人が目先の快楽の為に見ないふりをしている、実際の社会問題、自然環境問題なのだ。
 台詞なし、手描き、といった手段は、作者の問題意識をオブラートに包むことで、受け入れられ易くしているのだと思うが、だからこそ、急に現れた直接的な情報はパワフルだった。

こういった問題提起の作品を、なんとなく不愉快に思う方は結構いるだろう。その理由は色々推察できるし、理解できなくもない。しかしだからといって、この作品を批判するのであれば、それは短絡的であまり賢くはないと思う。実際にある問題を、素直に問題と認めることを、この作品は訴えているように感じた。私は都市に暮らす人間だが、だからこそこの作品を軽んじないようにしたい。

冒頭にあざやかなパターン模様の幾何学的なカットがあり、それは小石のなかのミクロの世界であることが明かされる。自然界では、ほんの石ころ一つの中にも無限の美が見いだせる。その視線は、監督の鋭い感性と審美眼の証明になっているだろう。乱暴な物質的成長をなさずとも、何気ない平穏、すぐそばにある自然の中に、美は既に満ち満ちているのだ。

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JI

3.0ブラジル

2018年9月23日
iPhoneアプリから投稿

省略されたチャーミングな絵と多彩な音楽のアンサンブル。本来なら短編で良い所だが、退屈にさせないストーリー。資本主義世界を構図化し、最後の展開はぞわっとさせる。こちとら大人なもんで、そこまで世界を単純化、人生を縮図化されるのは閉口する。しかし、子供が見ればトラウマになりかねない程の影響力を持ちうる力強さがこの作品にはある。

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Kj
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