劇場公開日 2016年12月3日

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アズミ・ハルコは行方不明 : インタビュー

2016年12月5日更新
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蒼井優×高畑充希、初共演「アズミ・ハルコは行方不明」で継承される女優魂

アズミ・ハルコは行方不明」。なんとも鮮烈なタイトルの映画が、12月3日に公開された。ある女性がごくありふれた地方都市から姿を消すさまを、時系列シャッフルと生々しい演出・芝居を盛り込み紡いだ力作が誕生。初共演を飾った蒼井優高畑充希に、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

「ここは退屈迎えにきて」で知られる作家・山内マリコ氏の同名小説を、「私たちのハァハァ」などの松居大悟監督が映画化。28歳・独身OLの安曇春子(蒼井)が、突如姿を消した。春子の捜索願いを模したグラフィティアートが、富樫ユキオ(太賀)と三橋学(葉山奨之)によって拡散されていく。元キャバクラ嬢の木南愛菜(高畑)は、恋心を寄せるユキオとともにいるためアート活動に参加。一方で、街では男ばかりを狙う“女子高生ギャング”の存在感が増していく。

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蒼井の映画単独主演は、「百万円と苦虫女」以来約8年ぶり。しかし気負いは一切ない。脚本を読んだ際には「出来上がりの想像がつかない、それが面白い」と感じ、攻めの姿勢で出演を決めた。「監督とプロデューサーと私が同い年なんです。私たちはまだ守りに入っていい世代ではないと言われているようで、この3人なら冒険できると思いました」。

春子は何故失踪したのか、その理由は仔細には語られない。ただ、退屈な日々を空費する男女が、かわるがわる映し出されるだけだ。それでも、一見して交わる点はないが「男性に翻弄される」ことで共通する3組の女性たちが、心の底から沸き上がる“叫び”を持て余し生きる姿は、目に焼き付いて離れない。

蒼井演じる春子は、もう存在しない“過去”にとらわれ、まだ存在していない“未来”に絶望することで、いま存在する“現在”に価値を見いだせない消極的な女性といえる。蒼井によると、「大半のアラサー女性、皆が、春子的な部分を持っていると思う」という。「『とりあえず笑っとくか』とグニュグニュやり過ごして、笑えば笑うほどそんな自分が情けなくなって、自分がいなくなっていく。多くの女性が経験したことがあるんじゃないかなって。私のなかにも春子がいるから、自分の春子をつまみ上げて前に出していきました。あまりオン・オフがない状態で、ヒョイと前に出す感覚です」。

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そして、高畑演じる愛菜は非常にエネルギッシュ。フラフラと漂いながら、感情の発露をひとときも欠かさない役どころだ。蒼井が「みっちゃん(高畑)は私と真逆の作業。自分にないものを表現するわけで、みっちゃんはテンション低めだもんね」と語りかけると、高畑はすかさず「大変でした」と顔をしかめてみせた。「役をつかむ糸口がまったくなくて、台本をもらった時点から私の『わからない』が始まり、クランクアップまでずっと言っていました。つかめた瞬間は一度もなく、苦しくて寂しかったです。わからなさすぎたので松居監督にも聞いたんですが、『俺もわかりません』と言われてしまった」(高畑)。

そんな大混乱を救ったのは、蒼井のひと言だった。「優ちゃんにも言ったら、『愛菜本人もわかっていないから、そのままでいいんじゃない?』。すごく色んなことが腑に落ちたんです。なので撮影の途中からは、わかろうとすることを諦めました」と明かすと、百戦錬磨の蒼井も「芯がない子を演じるのは本当に苦しいんだよね。芯がない分、どこにでもいけちゃうから」としみじみと話す。「自分がみっちゃんの世代の時にあの役をやれと言われたら、絶対に出来ない。だから、みっちゃんが戸惑っている時に、絶対愛菜はハネると思った。苦しそうだけど『よしよしよし!』と見ていました。別の女優さんがやっていたら、ここまで愛らしくならなかった」(蒼井)。

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現場の雰囲気は和気あいあいとしたものだったといい、蒼井は「足利でロケをしていましたが、共演シーンがない人たちともずっと一緒にいました。男子チームはレンタカーを借りて、日帰りの日光旅行に行っていました」とコロコロと笑う。スタッフ・キャストの垣根を超えた結束力もあり、「主演と監督の相性や関係性で現場は決まってきますが、私は何もしないまま空気感が出来ていた。すごく楽していましたね。アラサーチームは基本、現場がアラサーばかりだったので、日常のトーンそのままに撮影していました。カメラの前も後ろも、あまり空気が変わらなかったです」と目を細めた。

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一方で高畑のいる20代チームは、アップテンポの撮影だったようだ。「本番で上げられるように、ギリギリまでテンションを上げないようにしていました。本番前はローテンションなのに、スタートがかかると『いえーい!!』。終わりのない戦いでした。内側からエネルギーをダーッと出さないといけないと思い、皆、体力を温存していましたね」。そして愛菜の感情が暴発し、鉄パイプとビンを持ち破壊の限りを尽くすシーンもある。「本番でビンを投げ捨てちゃって、割れてしまったんです」と明かし、「破壊することって、普段は理性が抑えるからできない。でもこういうのは映画でしかできないから、破壊衝動のままにいられて楽しかったです」とうっとりと話す。悪戦苦闘の日々だったが、壁を乗り越えたことや、蒼井との共演はかけがえのない財産となっただろう。

その表現力から日本映画界に欠かせない存在となった蒼井が、スターダムを駆け上がりつつある高畑を頼もしそうに眺める。そんな様子が、インタビュー中に度々見られた。2人はこれからどう関わり、何を得ていくのか。芝居を通じて響き合うことが、必ずや2人のキャリア、ひいては日本映画界の財産となるはずだ。

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