君はひとりじゃない 特集: 感動? コメディ? それとも……!? “意味深”なこの物語をどう受け止める? あなたのラスト5分の解釈は? ベルリン銀熊賞受賞の父娘の《愛と再生の物語》

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君はひとりじゃない

劇場公開日 2017年7月22日
2017年7月18日更新

感動? コメディ? それとも……!? “意味深”なこの物語をどう受け止める?
あなたのラスト5分の解釈は? ベルリン銀熊賞受賞の父娘の《愛と再生の物語》

見る者によってシリアスにもコメディにも受け取れる、「意味深」な描写に満ちた注目作 見る者によってシリアスにもコメディにも受け取れる、「意味深」な描写に満ちた注目作

第65回ベルリン国際映画祭で、監督賞に当たる銀熊賞を受賞したポーランド発のヒューマン・ドラマ「君はひとりじゃない」が、7月22日より全国順次公開される。愛する母を亡くした娘とその父、そして彼らに関わるセラピストという、心に傷を抱えた3人の愛と再生が描かれていく。感動作なのかコメディなのか、見る者によって解釈が異なる「意味深」なシーンに満ちた注目作の見どころに迫った。


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大きな断絶を抱えた娘と父が正面から向かい合う、ラスト5分の展開が世界を沸かせた 大きな断絶を抱えた娘と父が正面から向かい合う、ラスト5分の展開が世界を沸かせた

巨匠監督アンジェイ・ワイダを筆頭に、オスカー監督ロマン・ポランスキー、「トリコロール」3部作のクシシュトフ・キエシロフスキーら名監督を輩出、近年も「イーダ」がアカデミー賞外国語映画賞に輝くなど、再び評価を集めるポーランド映画界から、良作映画ファン必見の1本が届いた。それは、本国で傑出した才能と高く評価される女流監督、マウゴシュカ・シュモフスカの「君はひとりじゃない」。

愛する母を失い、心身を病んでしまった娘と、人の死に無関心になってしまった検死官の父が、ミステリアスな療法を施すセラピストの存在によって、親子のきずなを再生させていくヒューマン・ドラマ。黒澤明ポール・トーマス・アンダーソンリチャード・リンクレイターら名だたる名監督が手にした、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した作品だ。

心身を病んでしまった娘オルガ(左)に、アンナ(右)の独特のセラピーが施される 心身を病んでしまった娘オルガ(左)に、アンナ(右)の独特のセラピーが施される

カンヌ、ベネチアと並ぶ世界3大映画祭、ベルリン国際映画祭で、数々の巨匠監督たちが手にした銀熊賞(監督賞)を受賞したのが本作。本国ポーランドのアカデミー賞に当たるイーグル賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞の主要4部門受賞の快挙を果たした。その評価はヨーロッパにとどまらず、アメリカの大手批評サイト「Rotten Tomatoes」では、88%フレッシュ(2017年7月12日現在)の高評価を叩き出している。

シュモフスカ監督(左)と本作の日本版ポスター・ビジュアル(右) シュモフスカ監督(左)と本作の日本版ポスター・ビジュアル(右)

マウゴシュカ・シュモフスカ監督の作品は、本作が日本初劇場公開作となるが、その手腕はすでに世界で高い評価を受けている。スイスのロカルノ映画祭では銀豹賞(新人監督賞)を、ベルリン国際映画祭ではLGBT作品に送られるテディ賞をすでに受賞。ジュリエット・ビノシュを主演に迎えた作品(「ジュリエット・ビノシュ in ラヴァーズ・ダイアリー」)は、世界40カ国超で公開が決まっている俊英監督だ。

(左から)父ヤヌシュ、娘オルガ、セラピスト・アンナの魂の再生が繊細に描かれる (左から)父ヤヌシュ、娘オルガ、セラピスト・アンナの魂の再生が繊細に描かれる

本作で描かれるのは、最愛の母・妻であった女性を亡くした娘と父、そして彼らを救おうとしながらも、自らもまた喪失感を抱えるセラピストの3人の姿。美しい映像と繊細な空気感、そしてときおりユーモアを交えながら、最愛の人の「死」に囚われてしまった人々が、いかにしてきずなを取り戻していくかに迫っていく。多くの解釈を許容する意味深なシーンの連続を経て、ラスト5分で迎える驚きの結末。温かな思いが訪れるその瞬間に、観客は何を見るのか。


ポーランドはシリアス、フランス&ドイツはコメディ、あなたはどう解釈?
数々登場する「意味深」なシーンは何を表しているのか?

アンナ(左)とオルガ(右)のセラピー・シーンにも深い意味がある? アンナ(左)とオルガ(右)のセラピー・シーンにも深い意味がある?

人間の心の機微を誠実に捉えようとするヒューマン・ドラマでありながらも、要所要所で交えられる「意味深」なシーン。本国ポーランドでは、社会を覆う閉塞感を反映し、シリアスなシーンと受け止められているが、フランスやドイツでは、半ばコメディ描写のように笑いが巻き起こったという。シュモフスカ監督自身、「正解は示さないで、それは観客の解釈に任せたい」と語っており、どう受け止めるかは見る者に委ねられている。シリアス・ドラマか、コメディか、それとも不条理ものか──日本人は、果たしてどう解釈するのか。

ヤヌシュが検死官であることから、劇中には数々の事件現場が登場するが…… ヤヌシュが検死官であることから、劇中には数々の事件現場が登場するが……

妻を突然失い、無感情化していく父・ヤヌシュを際立たせるのが、彼の検死官という職業だ。いくつかの事件現場が登場するが、冒頭のシーンでは、首を吊っていた自殺死体が、下に降ろされてしばらくするとむくっと起き出し、あぜ道の向こうへと歩き去っていく姿が捉えられる。だが、誰も彼のことを気にとめない……なぜ?

何かを記しているアンナ(右)だが、なぜ手元とは違う方向を見つめているのだろうか? 何かを記しているアンナ(右)だが、なぜ手元とは違う方向を見つめているのだろうか?

心身を病んでしまった娘・オルガに、独特のセラピーを施すセラピストのアンナ。彼女もまた幼い息子を亡くした悲しみに包まれた人物だが、彼女の淡々とした日常を描く際に、エレベーターで何度も一緒になる少年の姿が映し出される。アンナを見上げる姿から、顔見知りであることはうかがえるが、なぜ表情が曇っているのか?

アメリカや西ヨーロッパ諸国とは違う趣の街並みが、独特の雰囲気を盛り立てる アメリカや西ヨーロッパ諸国とは違う趣の街並みが、独特の雰囲気を盛り立てる

部屋の全景を捉えるシーン、食事を準備するシーンなどなど、本作には真上から撮影したカットが多く登場する。当初は、「これは監督の作風なのだろうか?」と思うはずだが、それにしても数が多すぎる。となると……「これは何かの、誰かの視点を表現しているのではないか?」という思いに至るのだ。では、それは誰なのか? そして、なぜ「上」からなのか?

喪失感からやせ細っていくオルガ(左)と、逆に太っていく父のヤヌシュ(右) 喪失感からやせ細っていくオルガ(左)と、逆に太っていく父のヤヌシュ(右)

ヤヌシュが眠っていると、突然ステレオから「You'll Never Walk Alone」が鳴り渡る。同曲は、フランク・シナトラエルビス・プレスリー、バンドのジェリー&ザ・ペースメイカーズやピンク・フロイドによって人気を博した曲で、イングランドのサッカーチーム、リバプールFCのサポーターソングでもある。「君はひとりじゃない」とリフレインする歌詞の意味を考えずにはいられない。

あなたは本作をどう受け止めるのか? どのような解釈でも、それは間違いではない あなたは本作をどう受け止めるのか? どのような解釈でも、それは間違いではない

前述の通り、見る者の感性によって受け止める反応が違うのが本作の特徴だが、それは「この映画は、こういう作品なのだ」と明確に示していないことが大きい。ある者にとってはシリアス、またある者にとってはコメディに映る──そのどちらでも構わないのだと、監督は、映画を見る楽しみのひとつ「観客が自由に解釈する」ことを歓迎していると言えるだろう。



黒沢清監督作のフォロワー、そしてヨーロッパの良作にひかれる映画好きへ
本作のクオリティをぜひ味わってみてほしい──

心身を病む娘役として壮絶な演技を見せるのは、本作でデビューのユスティナ・スワラ 心身を病む娘役として壮絶な演技を見せるのは、本作でデビューのユスティナ・スワラ

今までにあまり聞いたことのない監督やキャスト陣だからといって、ヨーロッパから発信された数々の秀作・良作を見逃すのは惜しい。ベルリン映画祭で高く評価されただけに、本作のクオリティはお墨付き。全編を包む独特な空気感は黒沢清監督作品にも共通しており、良作映画ファンにはぜひおすすめたい作品なのだ。

この物語は、いったいどういう結末を迎えるのか?──不穏な空気がたまらない この物語は、いったいどういう結末を迎えるのか?──不穏な空気がたまらない

「意味深」なシーンに代表されるように、見る者に解釈の余地を大きく残す作風は、同時に「この先いったいどこへ連れて行かれるのか?」という不安感を大きくかもし出す。画面の隅々、余白に至るまで、徹底的にこだわり抜かれた世界観は、「アカルイミライ」「岸辺の旅」の黒沢清監督作に通じている。黒沢監督ファンは、強くひかれるに違いない。

美しい映像と多くを語らない巧みなストーリーテリングが、良作好きに響く 美しい映像と多くを語らない巧みなストーリーテリングが、良作好きに響く

誰もが感情移入できる物語を構築し、エモーショナルに心を揺さぶってくるアメリカ映画も素晴らしいが、過度な説明を排し、美しい映像と繊細な心情描写で観客の想像力を喚起させるヨーロッパ映画好きにとっては、本作が上手くハマると言っても過言ではないだろう。人間とは、死とは、そして愛する人とのきずなとは──良作の匂いを感じてほしい。

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