劇場公開日 2016年10月29日

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「熱すぎるぐらいに熱い愛だ」湯を沸かすほどの熱い愛 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)

4.5熱すぎるぐらいに熱い愛だ

2016年10月16日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

山間の地方都市で銭湯・幸の湯を営む双葉(宮沢りえ)であったが、一年前に夫・一浩(オダギリ ジョー)が出奔してからは休業状態。
探偵(駿河太郎)に探索依頼をすると、あっさり隣町にいることが判明。
一浩を迎えに行くと、同居していた女に逃げられて、幼い娘の鮎子と二人暮らししていた・・・

といったところから始まる物語は、その後、双葉が末期癌であることが判明して、ジェットコースターに乗っているかのような展開をみせる。
高校でいじめられている娘・安澄(杉咲花)の物語、安澄と鮎子を連れての小旅行の本当の目的など、あまりにも起伏に富んだ物語なのだけれど、監督の巧みな演出にあれよあれよと乗せられてしまう。
久しぶりに、観客として「翻弄される」快感を味わったような思いがする。

そんな翻弄する物語を支えているのは、宮沢りえをはじめとする出演陣のリアリティある演技。

宮沢りえの、直接的な「熱い愛」。
ダメダメ父親だけれど、なんだか許せてしまうオダギリ ジョー。
双葉の「熱い愛」を正面から受け止めて、大きく成長する娘を演じる杉咲花。
そして、「他所の子」という思いもありながらも、幸の湯一家一員でありたいと願う、けなげな幼い鮎子(伊東蒼)。

このアンサンブルが素晴らしい。

なお、タイトルの『湯を沸かすほどの熱い愛』は、予想を超えたような結末を指す語であるけれど、巻頭の銭湯の煙突のカットで、勘が良ければ気がつく。
大団円直前の喪服の親族たちが河原で和やかに談笑するシーンを含めて、小津安二郎の『小早川家の秋』を思い出す。
最後のカットは、黒澤明の『天国と地獄』か。

<追記>
エンドクレジットでわかるが、幸の湯の外景と内部のロケ地は別の場所。
銭湯内部は、東京文京区にあった「月の湯」というところなのだが、昨年2015年に廃業していました。
うーむ、この映画を観て訪れてみたくなったのだけれど、残念至極であります。

りゃんひさ