劇場公開日 2015年9月19日

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「邦題のミスリードで評価の低い本作を全力で擁護させて頂きます!」ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0邦題のミスリードで評価の低い本作を全力で擁護させて頂きます!

2015年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

邦題やプロモーションのミスリードが、映画の評価を著しく下げることが多々あって、本当に悲しくなります。
本作のように、切実なテーマがある映画は特に。
今までで一番むかついたキャッチが、『シェイム/SHAME』の"愛なら毎晩ティッシュにくるんで捨てている"ですが、本作はその次くらいにむかつく邦題です。

配給会社のギャガ・プラスさんは、何を思って本作を配給したんだろうか。
イライジャ・ウッド制作総指揮だから?
韓国でソ・ジソプが配給権を獲得したから?
本作の監督アナ・リリー・アマポアーの次回作の主演が、キアヌ・リーヴス、ジム・キャリーだから?
映像がジム・ジャームッシュ的なモノクロで、お洒落っぽいから?
なんとなく、次きそうな感じだから(笑)?

因みに主演の少女には牙が生えてますが、ヴァンパイアとは言及されていません。
首筋に噛み付いて相手を殺しますが、指も食いちぎります。
噛まれた相手はヴァンパイアにならないし、鏡にも映ります。
汚れた血(ドラック漬け)を襲っても、平気。
少女が襲うのは、全て悪い男です。
そしてなにより、十字架は出てきません。
牙が生えた少女の格好は、所謂ヴァンパイア的なマントに見えますが、同時にイラン女性が身にまとう"チャードル(体全体を覆う黒い服装)"であることが分かります。

監督は、イラン系アメリカ人の女性。
本作の舞台はイランの架空都市"バッドシティ"です。
原題「A Girl Walks Home Alone at Night」の意味は、"少女が一人で夜中に我が家を目指す"でしょうか?
イランでは夜間の女性の外出は、禁止だったように思います。
また本作では猫が色んな場所で登場しますが、イランでは猫は外に出してはいけないようです。
少女は家の中では80年代のアメリカのポップスを聞き、カットソーにジーンズでダンスしています。
マドンナのポスターが、意図的に何度も画面にアップになる(マドンナ風ですが、監督が変装してるようです)。
イランでは、西洋の音楽は禁止です。
この点については、イラン出身のバフマン・ゴバディ監督の"ペルシャ猫を誰も知らない"をご覧になると分かると思います。

さて、本作の少女が向かう原題の"Home"が、単なる家でないことはもうお分かりだと思います。
"Home"は全てのイラン女性が目指しているものなんでしょう。
でもタイトルに"ヴァンパイア"とついているせいで、ネット上の評価は散々です。

映画の評価は観る方の知識や経験、そしてなによりその時の精神状態で大きく左右されると思います。
今の私には「分かるよね?」と、まるで縋ってくるような映画でした。
私の"我が家"も遠い。
熊本ではDenkikanさんで、1週間の限定公開でした。
見終わると隣の隣に座っていたロマンスグレイなおじ様が、「傑作だったね」と仰いました。
私は傑作って言葉は好きじゃないなぁ、と思いつつ、やっぱりそんなおじ様がいるDenkikanさんが好きだ-!と思いました(笑)
上映館がかなーり少ないですが、もしお近くであれば是非!

※本年観た映画の中では、上位にくるくいらい好き。

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さぽ太