劇場公開日 2015年12月12日

orange オレンジ : インタビュー

2015年12月11日更新
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土屋太鳳、怒涛の2015年に手に入れたのは「出会い」と「迷い」

「生きることはあがくことなのかな?」。20歳にして“朝ドラ女優”の看板を背負った土屋太鳳は最近、そんな思いに駆られるという。土屋が「まれ」の撮影終了から12日後にクランクインし、しかも「まれ」で夫婦を演じた山崎賢人を再び相手役とし、挑んだのが映画「orange オレンジ」だ。共に「命」がテーマにあると感じたという土屋は、この2作を通じて何を手に入れたのか。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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原作は、全5巻で既に累計発行部数400万部を突破した高野苺氏の人気漫画。女子高生の菜穂の元に、10年後の自分から手紙が届く。そこには自分が転校生の翔に恋をすること、思いを告げられぬまま翔が死んでしまうことが綴られていた。菜穂は未来を変えようと行動を開始する。

「まれ」も含め、学生役は何度も演じてきたが、実は本作のような少女漫画原作の女子高生を演じる機会はほとんどなかった。自身の高校生活も「(本作の菜穂と違い)女子高でしたし、部活をガツガツやってきたタイプで、ここで描かれているような高校生活とは全く違った(苦笑)」とあって、まさに憧れを遅れて体験するような思いで、菜穂と仲間たちの青春を生きたという。菜穂に対して感じたのは、「マシュマロのような柔らかさと不思議な儚さ」だった。

「最初、雰囲気から役に入るなら、外見からガッチリと作っていこうかと考えたんです。原作を尊重したいという思いも強かったので。でも、リハーサルを重ねていく中で『何か違うな』と感じて。そこで、菜穂ちゃんの柔らかさと儚さはどこから来ているんだろう? と考え、原作と脚本を何度も交互に読み返す中で、菜穂ちゃんと翔は一見、違うタイプのようで実は似ていると気づいたんです。だから、2人は一緒にいて幸せなのに互いに気を遣い合い過ぎて、どんどん不安になってしまう。この純粋で真っ直ぐな愛情が、儚さにつながっているのかなと。そこからさらに、もしかしたら菜穂ちゃんは、自殺してしまった翔のお母さんとも似ているのかもしれないなとも思いました。思いを口に出せないまま、我慢して飲みこんでしまうところは同じなのではないか。そこから菜穂ちゃんが少しずつ見えてきました」。

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台本を読み込み、場合によっては今回のように原作に立ち返りながら感覚と論理をすり合わせ、“深化”していく。土屋なりの役作りのメソッド。「理解が早い方ではないので、ずっと考えて、考えて、『あ、これかもしれない』というものを掴んで、そうすると、そこからまた少しずつなんですけど、見えてくるものがあります。例えば、菜穂と翔のお母さんが似たタイプだとするなら、翔が菜穂に惹かれたのも、知らずに母親の姿を重ねていたからなのかもしれない。だからこそ、菜穂の言葉は翔にとってもすごく重いんです。菜穂のひと言が、翔の人生を変えてしまうかもしれない。その怖さ、言葉の重みを意識して演じないといけないんだということにも、そこで気づかされました」。

数週間前まで撮影を共にし、役の上で夫婦として人生を一緒に歩んできた山崎と、また違った関係性での再共演で、出会いからやり直す。切り替えの難しさなどはなかったのかと尋ねると「切り替えるのではなく、むしろつながっているという意識を大切にしました」という答えが返ってきた。

「戸惑いは全くなかったです。感覚としてはひとつの世界での人生に区切りをつけて、また別の世界で出会ったという感じ――それは偶然ではなく、しっかりと意味があると思っています。『まれ』は命を生んで、育んでいくという過程を賢人くんと夫婦でやらせてもらいました。『子育ては大変だけど、すごく素敵なことだと伝えよう』という話をして、若いけど互いに尊敬し合っている姿や、時にラブラブな姿をお見せしました。今回の『orange』では“命の大切さ、いまを生きること”を菜穂と翔で表現しています。どちらも『命』をテーマにしているけど、それをきちんと受け止め、偶然と思わないようにしようと思いました」。

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「まれ」、今作、そして放送中のドラマ「下町ロケット」と、注目を浴び続けた1年だった。改めてこの怒濤の1年の中で得たものとして、土屋は「出会い」と「迷い」を挙げる。

「普通の1年では出会わない数の人とお会いして、たくさんのアドバイスをいただいたり、勉強させていただくことができました。と同時に、お芝居の難しさを感じるようにもなりました。やればやるほど『これでいいのかな?』『いまの気持ちでよかったのかな?』と考えてしまって、もしかして、朝ドラ以前の方が集中力があったんじゃないか? と感じてカメラの前に立つのが怖くなったんです。でも、それを先輩方に話したら『それでいいんだよ』『焦らずにひとつひとつを大切にしていきなさい』と言っていただけて。(『まれ』で師匠を演じた)小日向(文世)さんにも『焦るな!』と何度も言われました」。

決して、迷いや恐怖が消えたわけではない。だがそれらの感情があることを肯定的に受け止めている。それは、映画の中の10年後の未来を生きる菜穂たちの姿とも通じる。

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「撮影の1か月前から不安になるシーンとかもあるんです(苦笑)。ずっとそのシーンのことばかり考えて、頭から離れなくなるような。いままではそれがすごくイヤで『なんでこんなに不安になるんだろう? 怖いな』という気持ちでした。でも朝ドラ、『orange』、『下町ロケット』とお芝居を重ねていく中で、そういうシーンに遭遇して、実際に芝居に臨んだ時、『ああ、あの不安の時間は間違いじゃなかったんだ! ちゃんと迷うことに意味があったんだ』と実感できたんです。これからもしっかりと、あがいていきたいと思います」。

この先しばらく、いや、ことによるとずっと“朝ドラ女優”という看板が付いて回る。こうした取材などで見せる真摯な姿勢とも相まって「明るく元気で真面目な優等生」というイメージも。こうしたパブリックイメージを打ち破るのは決して容易ではない。「私、本当に単純に不器用なんです(苦笑)。台本を読むのも遅いし、理解も遅いので、自分のことを全然、真面目だとも思っていなくて。単にそこまでやらなきゃできないってだけなんですよね。ただ、キャラクターと重ねてそうやって見ていただけることは嬉しいことです。これから、成長した姿をお見せしつつ、いろんな役と出会って『新鮮だね』といい意味で期待を裏切られるようになりたいと思います!」。

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