劇場公開日 2015年12月19日

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ディーン、君がいた瞬間(とき) : インタビュー

2015年12月7日更新
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アントン・コービンが語るD・デハーン&R・パティンソン共演「ディーン」完成までの道のり

24歳の若さでこの世を去った稀代のスター、ジェームズ・ディーン。さまざまな著名人を見つめてきた写真家、デニス・ストック。偶然出会ったふたりは、ぶつかり合いながらも互いの才能にひかれていく。ディーンが死去する直前の旅路を通じ、天才ふたりの絆を描いた映画「ディーン、君がいた瞬間(とき)」。メガホンをとった写真家アントン・コービンが来日し、映画完成までの道のりから作品づくりへの情熱を明かした。(取材・文・写真/編集部)

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 「エデンの東」で主演を飾ったディーンは、わずか4年という短いキャリアでこの世を去った。本作は、そんな伝説的カリスマの内面とそれをとらえようとしたストックに焦点を当てており、通常の伝記映画とは一線を画している。「ジェームズ・ディーンの伝記はつくりたくないと思いました。興味があったのは、カメラマンから見たもの、その視点でした」「誰かとの出会いが人の人生にどれだけ影響を与えるかということを描きたかったのです。この映画で扱った話は非常に小さい話ですが、多くの人に影響を与えている出来事なのです」

U2やデペッシュ・モード、デビッド・ボウイらミュージシャンから役者まで多くのスターを写してきたコービン。同じ写真家として見るストックの作品には「今回、彼の人生を調べて非常に感心しました。ポートレイト写真は顔しかわかりませんが、彼はドキュメンタリー的なアプローチをしていたので、時代を感じることができるのです」とフォトジャーナリストとしての魂を感じた。劇中では、実際にストックが残した写真と同じ構図で、ディーン役のデイン・デハーン、ストック役のロバート・パティンソンが向き合うカットがいくつも盛り込まれている。

危うさ、儚さ、脆さ――デハーンは綿密なリサーチを重ねることでディーン像を構築し、当時の彼を直接知る人物からお墨つきを得るまでに完成させた。「デインはとてもアカデミックなアプローチをする役者なうえ、ジェームズ・ディーンは彼にとってのヒーローなので、ものすごく大変だったと思います。誰もが知っている映画の中でのジェームズ・ディーンと、本当のジェームズ・ディーンとの違いは難しいですが、この映画ではそこを描いていて、デインはよくやってくれました」と太鼓判を押す。

さらに、3カ月で11キロ以上増量するなど肉体改造を行い、細身の“シックボーイ”姿を封印。「すごくスリムなので、特別な食事で太らせました。50年代のスターは、腹筋が6つに割れているのではなく、お百姓さんの息子という体つきだったので、それを作るため頑張っていました。耳たぶもなかったので、毎日付け耳たぶもしていましたね。残りのギャップは、彼の演技の才能で埋めていきました」。そもそも、なぜデハーンをディーン役に選んだのだろうか。

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ジェームズ・ディーンの映画を見ながら演技の勉強をしたというくらい、デイン・デハーンにとってジェームズ・ディーンはヒーローなんです。だから、失敗するのではという思いから恐怖もあったでしょうし、ディーンは多くの人々のヒーローでもあるので、最初僕に会いたがらなかったんです(笑)。でもそれを乗り越えた後、デインはフィリップ・シーモア・ホフマンのように役の奥まで入り込み、どんな役でも『この人なんだ』と信じられる役者だと感じたので、彼に決めました」

デハーンとともに核となったパティンソンには、「(「トワイライト」シリーズでの成功のあと)役者としての才能を証明しなければいけないと思っている」と感じた。「デニス・ストックという人物は、この作品の中ではカメラマンとしての才能を証明したがっている人物なので、考え方が似ていると思いました。また、パティンソンはチャームさだけでなくある種の苦悶、苦闘も抱えており、当時のストックが持っていたものと同じだと思ったのです」と重ね合わせた。

撮影の数カ月か前には、パティンソンにライカ(カメラ)を渡し、カメラマンとして自然な動きを身に付けさせた。そして、ふたつのアドバイスを行ったという。ひとつは、キャリアを経てたどり着いた「カメラマンとはどういうものか」だ。「ロバートには『いつその瞬間に合うか分からないから準備をしておくように』と言いました。ウィリアム・ユージン・スミスが水俣病を収めたように、ストックや50年代のジャーナリスティックなカメラマンは、いつもカメラを持ってストーリーを語っていたのだと思います」。もうひとつは、ストックが残した多くのフッテージと向き合うことだ。

写真家、映像作家と多方面で活躍しているが、被写体の魅力をとらえる写真、魅力をスクリーンで再現する映画の違いを聞いた。「まったく異なったプロセスです。映画は綿密に計画を立て作りこんでいくもので、例えばある感情を感じてもらいたいという場合は、いろいろプランニングしなければならないですし、演技の良し悪しも努力しなければいけません。写真はふたりの間にリアクションが起こるもっと一対一なもので、映画よりもプランニングしていない感じです」

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この作品では、「非常にゆっくりしていて考えさせるトーンの映画ではありますが、写真のようには見せたくありませんでした。ストックの写真のような映画では、誰でも作ることができると思ったので、あえて違うものにしたかったのです。彼が写真を撮った状況を考え、再現するようにしています」

コービンはミュージシャン、俳優と作品づくりを行い、写真や映画などさまざまな形で発表している。そして今、被写体として最もひかれているものは「絵や建築」だ。「カメラマンは、短い間ですがその人の人生の一部になる特権的なものだと思っています。若い時は音楽が好きで、音楽に関わる人を撮っていましたが、今は絵画に興味があり画家を撮影しています。いつも変化、進化し、周囲がどう思っているかということにとらわれないことが大事だと思うのです。私自身、マレーナ・デュマという女性画家と一緒にストリッパーのプロジェクトをやっていますし、いつもU2の写真を撮っているわけではありませんよ(笑)」

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