劇場公開日 2015年12月19日

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ヴィオレット ある作家の肖像 : 映画評論・批評

2015年12月22日更新

2015年12月19日より岩波ホールにてロードショー

作家とその理解者、拒絶と激励のせめぎ合いの中から最高傑作が生みだされていく

社会においても家庭においても女性の権利が確立していなかった時代に、バイセクシャルな性体験に基づく私小説を書いたヴィオレット・ルデュック。実に多彩な切り口が考えられる彼女の作家人生を、マルタン・プロヴォ監督は「拒絶」をキーワードに追った。

ヴィオレット(エマニュエル・ドゥヴォス)の処女小説「窒息」の冒頭を飾るのは、「母は私の手を握らなかった」という最初の拒絶の記憶だ。私生児として生まれ、母親に望まれない子であると強く意識して育ったヴィオレットは、つねに誰かに愛されたいと願い、その思いをぶつけては拒絶される。30代半ばのヴィオレットに小説の執筆を勧める作家のモーリス、「窒息」の出版に尽力したシモーヌ・ド・ボーヴォワール、「窒息」のファンを表明する富豪のジャック・ゲラン。彼らはヴィオレットの才能を認めるが、女として愛してはくれない。おまけに小説は売れず、ヴィオレットは世間からも拒絶されたと感じる。

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とはいえ、そんなヴィオレットを愛さなくとも理解した人物がいた。ボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)だ。ストーカーのようにつきまとうヴィオレットから一定の距離をとりつつ、ボーヴォワールは「心の全てを書いて吐き出せ」とヴィオレットを叱咤激励する。このボーヴォワールの「感情で拒絶しながら理性で励ます」というスタンスが、この映画に唯一無二の個性をもたらしている。

ボーヴォワールに「とにかく書け」とプレッシャーをかけられたヴィオレットは、否応なく愛されない自分の内面をつきつめて文章にしなければならない。残酷な試練だ。が、試練の先にしか救いがないと信じるボーヴォワールはプレッシャーをかけ続け、彼女に嫌われたくないヴィオレットも苦しみながらも従う。ふたりの関係は恋愛でも友情でもなく、強いてあげるなら「セッション」の鬼教師と生徒に近い。そのせめぎ合いの中からヴィオレットの最高傑作が生みだされていくところに、ゾクゾクするほどのスリルを感じた。

矢崎由紀子

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