劇場公開日 2016年1月23日

信長協奏曲(ノブナガコンツェルト) : インタビュー

2016年1月22日更新
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柴咲コウ、「信長協奏曲」出演を決める大きな要因となった人物は?

「最近より一層、芝居に自分の人生観そのものがしみ込んでいるなあって感じます」とほほ笑むのは、女優・柴咲コウ。「信長協奏曲(ノブナガコンツェルト)」で信長の妻・帰蝶に扮している柴咲に、演じるということについて話を聞いた。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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タイムスリップした高校生サブローが、病弱な織田信長と入れ替わり天下獲りを目指す。そんな奇想天外な時代劇「信長協奏曲(ノブナガコンツェルト)」。連続ドラマに続く今回の劇場版では、「本能寺の変」に至る信長の数奇な運命が描き出される。

連ドラ開始の時点ですでに今回の劇場版制作を知らされていたという柴咲だが、連ドラからの映画という流れに、二の足を踏む自分もいた。「最初に全ての脚本が出来上がっている状態ではなかったので、正直、着地点が見えないままに映画化という枠だけが決まっているというのは怖かったです」。

それでも、柴咲が出演を決める大きな要因になったのは、主演を務める小栗旬の存在。2010年に放送された「わが家の歴史(第一夜)」で同一シーンに出演しているものの、直接の絡みはなく今作が実質的初共演である。「プライベートでお会いしたことはあり、以前、別の企画でも小栗さんから『一緒に…』と声を掛けていただいたんですが、スケジュールが合わずにできなかったという経緯もありました。芝居の熱量が高い人だということは、出演されている作品の画面からも伝わってきたので、それを同じ現場で味わってみたいと思いました」。

小栗、山田孝之らは同年代であり、共に10代、20代と主演を張り、同じ世代を引っ張ってきたが、実際に現場を共にしてみての印象はどうだったのだろうか。

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「役者だなあ…という感じですかね(笑)。グッと役に入り込んでいくので、こちらがのまれちゃうんじゃないか? 踏ん張らなきゃ! と現場にいました。圧倒的に男性が多い現場で、独特の空気があるんですよね。シリアスなシーンになるとピーンと凍てつくような空気になって『男の子たちはそれを隠そうとしないんだな(笑)』と感じつつ、一緒の空間を楽しませてもらいました」。

信長の正室・帰蝶はこれまでも数多の名女優たちが演じてきた人物だが、現代からタイムスリップしてきた高校生が主人公という異色の設定もあり「過去の作品や、正統派の時代劇というものを一切踏まえずに臨んだ」というが、現場で戸惑うこともあったようだ。

「序盤は特に難しかったです。撮影方式や音楽、編集を含めて時代劇という感じではなくて、耳には(信長が話す)現代語が入ってくるけど、目に映るのはあの時代のものだから、脳が追いつかなくて、覚えたはずのセリフが出てこないんです(苦笑)。最初は苦労しましたが、会話はキャッチボールですから、信長が入れ替わったことを気づかないながらも、徐々に影響されて変わっていくという部分を大事にしようと思い、演じました」。

本作以前にはハリウッド映画で、「忠臣蔵」をベースにした「47RONIN」、現実と劇中劇の「四谷怪談」と虚構が入り混じった「喰女 クイメ」など、時代劇をモチーフにした映画に出演。そして、これらの作品とは正反対の正統派時代劇であるNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(17)に主演することが決まっている。

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「歴史ある大河ドラマに出られるのは嬉しいですし、その前にこうした、正統派ではないエンタテインメント性の強い作品を経験できたことは、いい勉強になったと思っています。欲を言うと、これからもこういう作品をやりたいですね。“いま”の時代劇は、歴史に詳しい人だけが見るとは限らない。幅広い視聴者、観客の心をどう響かせるか。私自身も歴史に詳しいわけではないので、史実のディティールを追うだけでなく、この瞬間、この人は何を思い、どう決断をしたのか? という芝居に落とし込んでいきたい。自分たちの世代で新しい時代劇を切り拓けたらと思いますね」。

女優としての自身を「役者バカというタイプではない」と分析する。同時に出てきたのが、冒頭の「芝居に人生観がしみ込んでいる」という発言。その真意は、「自分の生き方として、嘘偽りで塗り固められたことはしたくないし、自分の心や社会に対して嘘をつくような作品、ご都合主義のことはできない。そうした“反動”もあって、エンタテインメント性の高いものを実直に作っていきたいという思いがあるのかな? 私もそうだったし、子どもたちは映画とかドラマとか“作られた世界”を見て憧れを持ったり、影響を受けて育っていく。そこで観客の夢を膨らませるということに真摯に向き合いたいという気持ちが強いです」。

いまのような心境に落ち着く以前は「自分とは何か? 人生とは何か?」と問いかける時期が続いたという。「10代、20代と迷いに迷っていたし、抗ってもいましたね。その分、自分を覆う殻も人一倍、分厚かったし、ひとに対する当たりも強かった。弱さゆえにそうせざるを得なかったけど、いまは、そこから一歩進んで、意識が自分自身に対してではなく、外側に向くようになってきたと思います」。

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その過程で、演じることにより楽しさを覚えるようになっていった。「細かいところですけど、若いころと比べると、体を反転させて振り向く速度は遅くなるし、声のトーンは落ち着きますよね(笑)。それが面白い。瞬発力ではなく経験がにじみ出てしまう。10代のころの社会に反抗するような役よりも、30代の誰かの妻だったり、キャリアウーマンの女性の方が、社会的な責任を負っているから小手先だけで表現することができない。より嘘をつけなくなってきて、そこが楽しいです。この先、もっともっと人生観と芝居が混じり合っていけばいいなぁと思います。以前は、どこかで芝居を楽しみつつ、義務感の方が強いところもあったけど、少しずつ割合が変わって、演じることが人生の喜びになったらいいですね」。

改めてドラマ、映画と帰蝶を演じて新たに手に入れたものをこう語る。「自由のない時代を生きる女性を経験して――私自身は『折れる』ということを知らず、やると決めたらやるタイプなんですが(苦笑)――耐え忍ぶというところにある美しさや意味、男性を支えつつ、彼女たちが自分たちの生きる意義や目的をきちんと感じながら生きていたんだということを感じました。すぐに『私が!』となってしまう自分を反省もしましたね(苦笑)」。

これから大河で演じる直虎は、女性ながらに強さを求められる、あの時代には珍しい女性だが……。「そうなんです、『おれが!おれが!』タイプです(笑)。面白い巡りあわせだなと思います。ある意味で、私自身と似ているからこそ、違う自分が引き出されるのでは? という予感もしています」。

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