劇場公開日 2016年1月30日

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猫なんかよんでもこない。 : インタビュー

2016年1月27日更新
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松岡茉優、風間俊介という目指すべき“道標”から学んだこと

実力派俳優の風間俊介にとって、実に5年ぶりとなる主演映画「猫なんかよんでもこない。」が1月30日から全国で封切られる。同作でヒロイン役、幼稚園の調理員・ウメさんに扮したのが若手きっての演技派・松岡茉優。メガホンをとった山本透監督が出演を熱望したという松岡に、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

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同作は、元プロボクサーの杉作氏の実体験に基づく人気コミックの実写映画化。目のケガでプロボクサーの夢を絶たれた主人公のミツオが、家に転がり込んできた2匹の捨て猫“チン”と“クロ”の面倒を見るようになり、次第に生きる希望を見出していく姿を描く。大ヒットした山崎貴監督作「永遠の0」の林民夫が、山本監督と共同で脚本を執筆している。

私生活では犬派だという松岡は、「私が小さい頃に祖母が猫を飼っていたんですが、自分のことを“先輩”だと思っていたのか高飛車で、全く懐いてくれなかったんですよ。そんな事もあって猫をかわいいと思ったことがなかったのですが、幼い頃の“チンクロ”ちゃんとして出てくれた2匹は生まれたての子猫で、かわいかったなあ」と目を細める。猫と初共演を果たした本編では慣れた手つきで撫でており、猫も安心しきっている様子がうかがえる。

松岡に動物遍歴を振り返ってもらうと、「犬、猫、セキセイインコ、ウサギ、熱帯魚、亀……。生活のなかに、途切れることなく生き物はいた気がします。だから、動物との距離感は分かっていました。あとは、風間さんが教えてくれましたね」とほほ笑む。撮影では、いわゆる“猫待ち”の時間もあったようだが、「タレントわんちゃんに比べれば気まぐれ感は確かにありましたが、こっちが本気でいてほしいときはいてくれましたし、距離感は良かったと思いますよ」と胸を張る。

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主演の風間は、憧れの存在でもあった。「『3年B組金八先生』に出ている風間さんを、どんぴしゃで見ていたんです。小学校の低学年の頃だったと思うのですが、いつもは母が『9時に寝なさい』っていうのに、金八先生の放送の日は(午後)11時まで見させてくれたんですよね」。それだけに、「映画 鈴木先生」、NHK時代劇ドラマ「銀二貫」に続き3本目となる今作で、初めて共演シーンを得た事は大きな充足感を松岡にもたらしたようだ。

「『鈴木先生』では、生徒のひとりだったからちゃんとお話することはなかったのですが、屋上でカマを振り回すシーンがあって……。狂気というものをこんなにも体現できる人って少ないんだろうなあって思いながら、蚊帳の外で普通にお勉強させてもらっていました。『銀二貫』では、松竹撮影所ですれ違っただけ。3度目でやっと目を見てお芝居をすることができました。ずっと一緒にお仕事をしたかったし、私としては何の違和感もなく入っていけましたね」。

実際に対峙してみると、風間の“座長”としての振る舞いに目を見張ることが多かったという。「すごく居心地がいいし、これからもご一緒していきたい先輩俳優さん。主演俳優としても、すごく柔和な意味で異端だと感じました。現場は少数精鋭でやっていたので、助監督さんの手が回らないときなどは交通整理というか、『すみません、ご迷惑おかけします!』って誘導されていました(笑)。聖徳太子みたいでしたよ。全員の会話が聞こえているし、全員の感度を把握していらっしゃって、アンテナが張りめぐらされているのでしょうね。尊敬すべき先輩はたくさんいらっしゃいますが、私が目指すべき方向の上の方にいらっしゃると思いました。これからも、風間さんの俳優たる姿勢を見ていきたいなあ、勉強していきたいなあって感じました」。

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松岡は2014年当時、映画はもちろんドラマ、バラエティ番組のMCなど途切れることのない仕事に、ひとつひとつ真摯に対峙していた。「映画『ストレイヤーズ・クロニクル』とドラマ『限界集落株式会社』の撮影を縫いながら、『ストレイヤーズ』が終わると『猫よん』が飛び込んでくる状況で、すごく不安でした。風間さんと初めてのお芝居だし、かわいらしい作品で繊細にやるべきなのに、2作品とも感情のたかぶりが激しいものだったから」と話しながらも、「リフレッシュしちゃったというか、カウンセリングを受けに来たような感覚でいられたんです」と笑みを浮かべる。

「『なんでも大丈夫だよ、おいでよ』と言ってくれる風間さんと、ちっちゃな心の動きを見ていてくれる山本さんがいてくれたことで、お芝居をすることの構えみたいなものがすっとなくなりました。それからは、『限界集落』がすごくやりやすくなったんです。凝り固まっていた私の考えを、ほぐしてくれた感じですね」。

昨年は、新成人としての1年を遮二無二ひた走った。成人式を迎えた際、筆者に「お仕事に対して、お芝居に対して、自分の意志と責任をもって挑むということ。周囲の人たちを見渡せる心の余裕をもってお仕事をしないと、『いよいよ間に合わないぞ、求められなくなるぞ』と感じているんです」「自分の将来に対しての責任というものを抱きながら、どういう役者になりたいのかという意志を定めていく1年目にしていきたい」と語っている。

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「たくさんの人にいろんなアドバイスをいただいて、いろいろ考え続けた1年だったかもしれません」と2015年を振り返る松岡。なかでも、心の琴線に触れたのは、ある先輩俳優からのひと言だったという。「『お芝居やっているとき、ちょっと苦しそうだね』って言われたんです。『子役からやっているんでしょう? 俯瞰で見てみなよ』とも。なんでそんなに苦しそうにしているのにやっているのか、一度考えてみたら? とおっしゃっていただいて、ハッとしたんです。ほかにやりたい仕事はないし、お芝居は大好きのつもりだった。ただ、苦しそうって言われて思ったのは、余裕がないんだなあってことに思い至りました」。

そう語る松岡の背後から、「苦しさの中でもがくのが、あなたの魅力の一部だと思います!」という声が飛んできた。隣室を控え室に使っていた風間からの愛あふれるメッセージ。目を輝かせながら「ありがとうございます!」と叫ぶ姿はどこまでも清らかで、無尽蔵のポテンシャルを感じさせる。

同年代にライバルがひしめき合っていることは、5年後、10年後の松岡にとってかけがえのない財産となるはずだ。「二階堂ふみちゃん、(土屋)太鳳……、私にとって刺激になる同い年がたくさんいる状況って、すごく恵まれていると思います。1歳下には(親友の)橋本愛、森川葵ちゃん、小松菜奈ちゃんもいる。このぎゅうぎゅう詰めの“豊作”の年って言ってもらえる年代に滑り込めたわけですが、私は誰もやらないことをやりたいし、誰にもできないことがしたい。それには、自分の魅力はなんなのか、セールスポイントはなんなのかを考えていかないと。25歳、30歳と年を重ねていけばいくほど、人物勝負だと思いますから」。

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