劇場公開日 2015年2月7日

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Present For You : インタビュー

2015年2月7日更新
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オダギリジョー、映画作りのポリシーは「自分が面白いと思えるもの」

人間と人形がひとりの同一キャラクターを演じる。聞いただけではなかなかイメージが湧かないものだが、俳優・オダギリジョーはその未知なるプロジェクトに「挑戦的で面白いと思った」と出演を快諾した。それは、前衛的CGアニメ「The World of GOLDEN EGGS」などを手がけてきた臺(だい)佳彦の長編監督デビュー作「Present For You」。臺監督が約5年の歳月をかけ、実写映像と1秒24コマのパペットアニメーションを組み合わせて完成させた異色3D映画である。(取材・文/山崎佐保子、写真/堀弥生)

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撮影はおよそ5年前。オダギリは記憶の糸を手繰り寄せながら、当時を振り返る。「最初は当時作っていた2~3分のパイロット版を見せてもらいました。これを90分にして実写とパペットを組み合わせる、という企画に魅力を感じたんですよ。その時に出演を即決定しました」という。「実写映画と派ペットアニメというフィールドが違うものを合体させるというアイデア。昔『バッグス・バニー』でアニメーションと俳優が共存するっていうのはありましたけど、パペットと実写が2人1役で質感などの違和感はどうなるのかなとか、とにかく興味を持ったことが大きいです」と好奇心に火がついた。

東京・新橋のとある雑居ビルに「Present For You」はある。表向きは健康食品を扱う会社だが、実態は裏社会の大物(夏八木勲)が気に食わない人物を袋詰めにして送りつけてくる場所。梶原茂(オダギリ)の仕事は、そんな不運な彼らをキレイさっぱり消し去ることである。

パペットと人間がおかしなタイミングで代わる代わる登場し、時には必然のタイミングで切り替わる。とはいえ、実写パートも全編撮影しており、「僕らの撮影は基本的には普通の映画撮影と一緒。後で役者の動きに合わせて人形を1コマずつ動かして撮影するというスタイルでした。人間に比べて人形は機動性に幅があるので、たまに人間が動かないような方向に動くこともあるけれど、基本は人間の演技が元。口の動きなども細かく合わせているんですよ」。パペットアニメの撮影は、1日に3~5秒しか撮れないという。それは途方もないプロセスだったが、「臺さんの独特な世界観、臺さんにしか書けない言葉。臺さんのそういうセンスがちりばめられていると思います」と臺組ならではの映画作りを楽しんだ。

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出演を決めるにあたり重要なことは、その作品がオダギリにとって面白いと感じられるかどうか。今回の面白さは、「とにかく挑戦的なところ。普通の面白さと少し違って、見たことがないものを作ろうとしている面白さ。僕はそういうことに刺激されるタイプなんですよ。だからか自分がこれまで出演してきたものも、ストレートなところからちょっと逸脱した作品が多いかもしれないですね」と自己分析する。

確かにオダギリのフィルモグラフィーには、作品の選定に強いこだわりを感じさせるものがある。本人も「その褒め言葉はすごくうれしいですね」とほほ笑む。「今はなかなかインディーズが作れない時代になっている。でも個性的で魅力的な作品って、インディーズじゃないと無理ですからね。もちろん事務所はメジャー作品をやってほしいと思うだろうけれど、僕のこだわりなのかプライドなのか」と苦笑いを浮かべた。

独自のスタイルを貫いてきたように見えるオダギリだが、20代の頃には葛とうも多かったという。「20代の時は、ある意味自分の好みでしか演じていないから大きなカケみたいなものでした。『本人は面白いと言ってるけど、これって本当に面白いのかな?』って監督も不安だったと思う。自分のアイデアを押し付けるだけなのは問題だと思っていたけど、かと言ってただただ台本に書いてあるままに演じることはできない。僕の中でもすごく揺れてた時期はありました」。

しかし最近では、監督の方からオダギリに意見を求めてくれることが増えたという。「監督が信用してくれるようになりましたね。若手の俳優がやりたいことって、一見ワガママにしか見えないことも多い。僕は『こうしたい』『ああしたい』が強かったので、ワガママな役者と思われていたかもしれない。でも今は、監督の方から僕に求めてくれるようになり、僕も信頼されることで監督と共同作業ができるようになった気がする」と手応えもある。梶原は、アフロヘアにサングラスという奇抜な出で立ちで、口癖は「デラックス」。この奇抜なキャラクター造形にも、オダギリの意見が数多く取り入れられているという。

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共演者には風吹ジュン、柄本明、故夏八木勲さんら豪華演技派キャストがずらり。「何か面白いことをやりたい」という冒険心にあふれたベテラン勢が集い、臺監督を支えた。「僕もそうだけど、この作品に参加している俳優はみんなそういうタイプだと思います。こういう挑戦的なものをどんどん作っていきたいという思いを持っていたんだと思います。正直、『ある程度集客が見込めるものしか作らない』みたいな映画作りは、『もういいんじゃないの?』って気がしませんか? そういうものへため息が出ちゃうようなタイプが集まった映画」と、映画界に新風を吹かせようという有志が集まり、完成にこぎつけた奇跡的インディーズ大作。もちろん、夏八木さんも本作の完成を楽しみにしていた一人。しかし本作が完成したのは、惜しくも夏八木さんがこの世を去る数日前だった。

さて、何がそこまで役者たちを引きつけたのか。それは臺監督の映画に対する情熱とその人柄が大きい。「臺さんは今回が初めての映画なので、周囲にうまく助けを求めながらやっていましたね。むしろ臺さんの作りたいモノのために、みんなで臺さんを支えているみたいな感じ。役者が監督を愛せることってすごい大事なことだと思うんですよ。その人のために身を削れるって、好きな人じゃないとできない。愛される監督、臺さんはそれを持ってる人なんです」。

オダギリはミニシアター全盛期に個性派俳優として頭角を現し、積極的に海外の巨匠たちと共作しながら、メジャー・インディーズ問わずカメラの前に立ち続けてきた。初主演映画「アカルイミライ」でのズバ抜けた存在感ももちろん健在で、待機作には鬼才・小栗康平監督と組んだ「FOUJITA」も控える。「20代の頃は、30~40代になった時もっとやりたいことをやっていられる状態を作るために、すごく頑張って働いていた気がします。今は面白いと感じるものだけをやりたい、というスタンスを貫こうと思っているので、昔とスピード感は全然違うと思います。でもそのおかげで、ひとつひとつの作品に対してきちんと向かい合う時間を長く持てるようになったような気がしています」。

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