劇場公開日 2015年8月8日

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この国の空 : インタビュー

2015年7月27日更新
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「男と女がいて、そこにあるのは本能でしかない」二階堂ふみが明かす、愛に突き進むヒロインの激しさ

役と向き合い、作品の中でその人生を生きるたびに、二階堂ふみは美しさを増していく。「ヴァイブレータ」「共喰い」の名脚本家・荒井晴彦18年ぶりの監督作「この国の空」(8月8日公開)もまた、確実に20歳の彼女の内にある激しさを刺激し、あふれんばかりの輝きを引き出している。太平洋戦争末期、明日をも知れぬ命を生きるなかで、妻子ある男との許されぬ恋に突き進み、やがて終戦を迎えるヒロインを彼女はどのように体現し、どんな光景を目にしたのか?(取材・文・写真/黒豆直樹)

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谷崎潤一郎賞を受賞した高井有一の同名小説の映画化。東京で母と空襲に怯えながら暮らす19歳の里子が、妻子を疎開させて隣家にひとりで住まう年の離れた市毛(長谷川博己)にひかれ、彼女が徐々に「女」としての本能に目覚めていくさまを描き出す。

戦地ではなく、あくまで東京で日常を送る人々を静かに描いているのが本作の特徴。また、里子と同じ19歳で終戦を迎えた詩人・茨木のり子が瑞々(みずみず)しい感情で戦争を切り取った詩で、映画の中で里子が朗読する「わたしが一番きれいだったとき」も二階堂の感情を強く揺さぶった。

「これまで戦争を描いた映画を見て、もちろんどの作品からも感じるものはあるんですが、どこか遠いところで自分とは違う人間が戦争をやっているんじゃないかという感覚でした。でも中学の時に教科書で茨木先生の詩に出合って、戦争を初めて自分の身に起こるものとして感じたんです。どれくらいの人が亡くなり、食べ物がなくてどれほど苦しんだかを聞いても、自分の身に感じられずにいたんですが、あの詩を読んで初めて『これが戦争だ』と実感しました。脚本を読んで、その時のことを思い出しました。映画として多くの人が死に、食べ物がなくて……という部分を描くのはもちろんですが、そこで暮らしている人がいて、ご飯を食べ……という部分に実感を持たせるのが女優なのではないかと私は思いました」。

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里子は戦時下にあって、愛も知らずに死んでいくのかと不安を抱いて生きている。互いに明日をも知れぬ身の市毛との関係。それは「恋愛」や「思いを寄せる」といった程度ではなく「互いを欲し合う」という激しさをもって描かれている。

「ただ、このふたりの向かっているもの、見ているものは全然違うんですよね。男と女の違いでもあるし、里子が19歳だからこそ市毛にひかれる、いやひかれるというよりも、ただ向かってしまう部分もある。でも市毛がそれを引っ張っているかというとそうではなく、里子が主導していると思います。どこかでスイッチが入ってしまい、頭で(許されぬことと)理解しつつも、体が何かを欲し、それを埋めるように、むさぼるように市毛に向かっているように感じました」

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「終戦」の捉え方に、里子と市毛の大きな違いが表れる。戦争が終われば、市毛の妻子が疎開先から帰って来る。里子にとってそれは、空襲の恐怖とはまた別の非日常の終わりを意味する。

「戦争に怯える男、それでも生きる女がいる。戦争が終わると知って浮かれる男がいて、『女』に目覚めた女、これから待ち構えるものに対して決意と覚悟を持つ女がいる。それは現場でも、強く感じながら演じていました。ふたりのシーンに関しても、掛け合いや空気感は(長谷川さんと)ふたりで作りつつも、里子は結局、ひとりで生きているのを感じていました」。

戦争の極限ゆえに、否応なしに誰かを求める心情。そこには現代とは全く異なる、不自由さのなかで生きるからこそのはかなさ、そして美しさがあるようにも感じられる。

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「どうでしょうね……純文学だから美しく見えますが、男と女がいて、そこにあるのは本能でしかないのかな?とも思います。実際、撮影の時は狭いマインドを持つようにしていたんです。知っている人間を近くに置かずに、なるべくひとりで現場にいるようにしていましたが、そこに強くあったのは哀しみでした。作品となった時、そこに『美しさ』がついてくるのかもしれません。最初から美しさを求めて演じてしまうと、違うものになるのかなと思いますね」

意識しないからこそ、そこにあるもの。二階堂は、「いま」という瞬間にも同じことを感じている。

「その時にしかできない役、できない顔、出てこない台詞というのは確かにあると思います。でも『いまこの時だから』と何かを思うのは難しいことで、振り返った時に『あの時、こうだったんだな』と分かるものなのかもしれません。30代、40代になった時、『20歳の私はあれでよかったんだな』と思えたら、素敵だなと思っています」

太平洋戦争下を里子として生きた二階堂の「いま」が、「この国の空」には込められている。

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