劇場公開日 2015年7月25日

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「誰も悪くない」野火 みうらさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誰も悪くない

2017年8月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2015年の初公開から2年経った2017年の終戦記念日にユーロスペースで鑑賞しました。当日は塚本晋也監督のトークショー付きで会場は満員。

公開当初より噂は散々耳にしていましたが、マッドマックス祭の最中だった私は見に行く機会を失っていました。

毎年毎年、8月15日に改めて観るべき作品だと感じました。
言葉にできないほどの凄惨な戦争体験を生々しく描いた本作。監督自ら扮する田村一等兵は弱々しく、身長も低く、まさに当時の日本兵そのままといった風貌。
数多くあるヒーロイズム的な映画にはしないとは監督の言葉で、まさに戦争の負の面だけが次々に田村を襲います。

飛行機からの掃射によって頭部が破裂した医師から始まり、
小さな小さな芋を分け合うガリガリの日本兵
ジャングルのその辺で死んだようにならんで眠る日本兵。
ウジが湧いても息はある者。
風景に溶け込む日本兵の死体。そこら中に死体が転がり、もはや当たり前となっている。
そして、人肉食問題。

監督は実際にフィリピンに行かれ、戦争体験者から言葉を聞かれたようで、映画に出てくる目を覆いたくなる悲惨な状況は当たり前だったという。
その上に立ち、人肉を食べたとか食べてないとかの議論の余地はないのだと。
人肉を食べるのは当たり前。
問題は「誰を」食べたかだと。

言葉でいくら語っても陳腐なものになってしまうので、百聞は一見に如かずだと思います。
トークの時にも監督がおっしゃられていましたが、この作品が、「はだしのゲン」のようにいい意味で子供の心にトラウマを残せればという言葉ほど、この作品の価値を言い表している言葉はないでしょう。
すでに成人し良いトラウマ経験とはいえませんでしたが、これを良いトラウマとして体験できる未来の子どもが羨ましくて仕方ありません。
その情熱が伝わったのか、映倫もPG12指定。
ぜひ子どもとみてトラウマを作ってほしい作品です。
この作品が後世まで伝わるよう応援していきます。
陳腐な言葉ですが、やっぱり戦争は良くないんだなと感じた雨降る8月15日でした。

みうら