劇場公開日 2014年4月19日

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チョコレートドーナツ : 映画評論・批評

2014年4月15日更新

2014年4月19日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー

人が人を思う心を伝える、カミングの名演が魂をふるわす

愛を描いた映画だ。男と女の恋愛映画ではないし、いわゆる家族愛を描いた物語でもない。ただ人が人を大切に思うその心を描いた映画。社会派ドラマという側面ももっているが、人間ドラマとしての深さとリアリティこそが胸を打ち、世界で10以上の観客賞を受賞している。

いまはイケメン俳優がゲイを公言してその勇気が賞賛を浴びる時代だが、まだまだ差別や偏見は根強い。それが70年代なら、マイノリティにとっては想像を絶するほどひどい状況。そんな世界で、歌手を夢みながら場末のショーパブで女装の口パクパフォーマンスをしているルディは、弁護士のポールと出会って恋に落ちる。ルディがアパートの隣室で母親に見放されたダウン症の少年、マルコを気にとめたのはその夜のこと。やがてルディとポールはマルコと“家族”をつくって幸せな時間をともにするが、ありとあらゆる社会悪と理不尽が、3人のささやかな幸せを引き裂こうとする。

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ルディはなぜマルコにそれほど愛情を注ぐようになるのか? 説明はほぼないが、ルディを見ているうちによくわかってくる。彼がいままでどんなに偏見や無理解にさらされてきたか。どれだけ孤独だったか。それがルディを演じるアラン・カミングの表情から、痛いほどに伝わってくるのだ。ひとりぼっちのときの、ふるえる睫毛。顔をくしゃくしゃにした笑顔、マルコを見るときの慈愛に満ちた目。そこには嘘がない。その愛に応えるマルコの表情も、ほんとうに美しい。最初はクローゼットから出てこられなかったポールも、マルコへの愛情によって変わっていく。何の見返りも求めないただの愛が、なぜ社会には理解できないのか?

その怒りを、やるせない思いを、カミングは音楽に乗せて歌う。ぐいぐいと心に入り込んでくる魂からの歌声は、見る者の魂を震わせずにはおかない! まさにカミング、渾身の名演。役と役者のパーソナリティは切り離して語るべきなのかもしれないが、カミング自身もバイセクシュアルを公言し、同性婚をしている。しかも、現在もブロードウェイでミュージカル「キャバレー」の舞台に立つソング&ダンスマン。これほどの適役はいないのだ。

涙に暮れる覚悟は必要。それでも残るのは、幸せだったマルコたちの美しい日々であり、愛の温かさであることは間違いない。

若林ゆり

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