劇場公開日 2013年12月21日

「今を生きることの意味」映画 中村勘三郎 CRAFT BOXさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0今を生きることの意味

2014年11月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

第十八代中村勘三郎が亡くなったことを知り、その日のうちに僕は、「一番好きな役者ではないし、一番上手い役者だとも思わない。しかし、一番客を呼べて、一番客を喜ばされれる役者だった」と書いた。
この20年間の勘三郎の活躍は、現代歌舞伎界の中で特筆すべきものだった。もちろん、猿之助あたりから「新しい歌舞伎」を作っていかなければいけないという強烈な刺激を受けただろうし、人柄から多くの歌舞伎以外のエンターテイナー達との付き合いの中で大いなる刺激もあっただろう。しかし、やはり歌舞伎界の中であれだけの活躍をしたのは傑出といっても過言ではない。後世の歴史にしっかりと刻まれるものだろう。

勘三郎は常々、そしてこのドキュメンタリー映画の中でも、「歌舞伎役者として今を生きる意味」という言葉を口にし、それを模索していた。だからこそ、あらゆるジャンルの芝居仲間と交流し、そこから「新しい歌舞伎」を創り出していった。
歌舞伎や伝統芸能を見る時、「今を生きる意味」を本当に実感させられる。歌舞伎を知れば知るほど、過去の「名優」達の名前とその評価を目にしていくわけだが、そこは想像の世界でしかない。
しかし、いま目の前で演じている役者達の評価は、「今を生きる」僕たちが下しているのだ。そして、それが歴史になっていく。

勘三郎という役者は、まさに「今を生きる」役者だった。そしてそれは、過去と、今と、さらに未来を感じさせてくれるものだったのだ。
映画でもそうだが、芝居でも、歌舞伎でも、「あぁ、いま、この時代にこの作品を見られて良かった」と思うことはしばしばある。過去や未来には、絶対に同じ感動を与えることはない、今だからこその感動と幸福感だ。それが、僕にとっての「今を生きる意味」でもある。だから僕は、そうした「自分がいま生きている意味を感じさせてくれて、幸せにしてくれる作品や、アーティストやクリエイター達には最大限の経緯を払っていたい。

第十八代・中村勘三郎という役者は、そういう意味では、間違いなく「今を生きる」意味を感じさせてくれた役者の一人だった。
本作の冒頭を見れば、製作者にも同じ気持ちがあったのだろうと推測できる。多いに共感出来るものである。

コメントする
CRAFT BOX