劇場公開日 2014年7月26日

エイトレンジャー2 : インタビュー

2014年7月22日更新
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歩みを止めず不器用に進む前田敦子に「エイトレンジャー2」は何をもたらしたのか?

少なからず驚いた。前田敦子の「エイトレンジャー2」への出演のことだ。「AKB48」でセンターに立った“元アイドル”が、男性アイドル「関ジャニ∞」にフィーチャーした映画でヒロインを務める。当然、発表当初からファンの間で反発する声はあった。そうした反応は予想していたし、何より彼女自身が、不安を感じていた。「当然、考えましたね。もし自分が(関ジャニの)ファンの立場だったら嫌でしょうし…」。迷いを抱えながら衣裳合わせに赴いたが、堤幸彦監督と顔を合わせ、言葉を交わしたことで「全ての悩みが一気に吹き飛んだ」という。新たな経験の全てを自らの糧とし、女優として着実に成長をとげている前田敦子。堤監督、そして関ジャニ∞との出会いは彼女に何をもたらしたのだろうか。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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関ジャニのメンバーたちが街を守るヒーロー“エイトレンジャー”に扮して戦うユニークなアクションエンターテイメントの続編となる本作。前田が演じたのは、エイトレンジャーにまつわる疑惑を暴くため、週刊誌の記者という身分を隠し、秘書として彼らに近づく西郷純。ぶっきらぼうな男言葉でメンバーに悪態をつくキャラクターは、意外なほどにハマっている。実は、最初の台本ではごく普通の女性口調だったが、衣裳合わせで前田を見た堤監督が、その場で変更を提案したのだという。

「衣裳を着た私をじっと見つめて『ちょっとキャラを強くしたいんだよね。口を悪くしてもいい?』と(笑)。私の中でも構えていた部分があったんですが、監督の提案のおかげで、観客が純を“キャラ”として捉えやすくなるなと感じて、スッと気持ちが楽になりましたね。監督には『しゃべり方が独特だね』と言われました。『このセリフをそう読むんだ?』って。でも、それを『そのままでいい』とおっしゃってくださって、そういう自分でも自覚していない個性を拾っていただけたのかなと思います」。

山下敦弘中田秀夫黒沢清ら、AKB48卒業後、わずか数年のうちに日本映画界を支えるそうそうたる監督と仕事をしてきたが、今回の堤監督が「正直、一番個性的な方だった」と振り返る。

「『とりあえず、こっちにおいで』という感じで呼んでいただいて、あっという間に“仲間”に入らせてもらった感覚でした。そこでひとつになったらバーッと現場がすごい勢いで進んでいく。次々といろんなことを試すんですけど、監督の中で迷いがないんです。すごいエネルギーで、モニターの前から大きな声で指示を出す姿も独特で、その場でザクザクと編集していくというのも新鮮でした。現場にいるのが楽しくて、空き時間はずっと監督の後ろでお仕事を見ていました」。

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女優として学んだこと、得たものも多かった。「演じる上での恥ずかしさや怖れというのを全部、取り除いていただきました。もちろん、これまで演じることに『恥ずかしい』という気持ちがあったわけじゃないけど、どうしていいのか分からないという感覚がすごく強かった。堤さんはひそひそと演出するんじゃなくて、遠くから拡声器でみんなに聞こえるように『こう言って!』とストレートに言ってくる(笑)。『怖れるヒマがあったら、とりあえずやってみなきゃ!』という気持ちで結構、激しいセリフをどんどん試していました」。

アイドルという同じ土壌で育った「関ジャニ」のメンバーたちからは、自分にはない“器用さ”を感じたという。「みなさん、本当に器用に何でもこなしますよね。関ジャニさんだけに限らないですが、男性アイドルほど器用な方はいないんじゃないかって思います。あくまで私がいた場所の話ですが、AKB48ってがむしゃらなんですよ。元々、みんなが羽ばたいていく場所だからというのもありますが、どんどんぶつかって強くなっていく感じ。私もそういうひとりでした。でも関ジャニのみなさんは全てが“当たり前”という感じで受け止めていて、すごくスマートなんです。尊敬しますね」。

「不器用」であることを前田は自覚している。「もうちょっと器用に…というか大人にならなきゃって思っています(苦笑)」と口では言いつつも、恐らく前田自身が目指しているのが器用な女優ではない。

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「いまは特に、“素材”としてその場にいて、不器用ながらも必死で付いて行くという感覚ですね。ありがたいことに毎回、新しい監督や俳優さんとご一緒させていただいて、でもまだ、自分の強みが何なのか? 自分に何ができるのか? 全然、分かっていなくて――だからこそ、必死に食らいついています。いまはまだ、毎回違うこと、ある意味で個性的な役柄をやらせていただけていて、それは自分にまだまだ経験値がないからでもあると思います。これから何年かして、過去にやったのと同じような役や、より普遍的な女性の役をやらせていただけたら、その時、また新たに悩む部分が出てくるんだろうなと思います」。

そう語る表情は満面の笑み。本作の公開と時を同じくして、初の舞台(「太陽2068」/演出:蜷川幸雄)も上演される。取材をしたのは、稽古が始まるまであと数日という時点。「まだ始まっていないから怖い(苦笑)。不安なのはいつもですが、『早く(稽古に)入りたい』と思ったのは初めてですね」と“初めて”の感覚を噛みしめるようにつぶやく。「何かを演じることは『難しい』としかまだ思いません。でも、そういう生き方をしていることが楽しいです」。

ぶつかって強くなる――不器用に、一歩ずつ、女優・前田敦子は歩み続ける。

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