劇場公開日 2014年10月11日

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ぶどうのなみだ : インタビュー

2014年10月9日更新
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大泉洋&安藤裕子 空知の自然に身を委ね、ゆるやかに紡いだ日々の営み

北海道・洞爺湖のほとりにある小さな町を舞台にした映画「しあわせのパン」から2年。主演・大泉洋と三島有紀子監督による“北海道シリーズ”第2弾は、大地一面に広がる空知(そらち)のぶどう畑を舞台に、シンガーソングライターの安藤裕子をヒロインに迎えた「ぶどうのなみだ」。雄大な北の大地に身を委ね、物語の主人公同様ゆるやかに日々を紡いだ大泉と安藤が、のどかな撮影風景を振り返る。(取材・文・写真/山崎佐保子)

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北海道・空知地方でオールロケを行った本作。“北海道に対する深い愛情”が評価され、北海道特別“福”知事に任命された北海道出身の大泉でさえ、空知の雄大な大地には驚かされたという。「北海道といえば田んぼや畑なので、僕もあそこまで大地一面に広がるぶどう畑は見たことがなかった。札幌も東京に比べたら緑はあるけれど、空知ほどの自然はない。本当に新鮮な場所でした」と感嘆の声を漏らす。本作を鑑賞した多くの人々が空知の大地に魅了されているが、福”知事の狙い通り、同作の経済効果は抜群といえる。

“自然体”という言葉がぴったりくる安藤も、空知のもつ大地のパワーをふんだんに吸い上げていた。「エリカも自然の美しさに感動して涙するシーンがあるけれど、私も初めて『ここでロケするんだよ』って連れて行ってもらった時、目がうるっとして息をのんだ。丘の上に登ると地平線が丸く歪むほどに広くて、山の奥まで大地が続いていく感じ。小さな街で育ち、都会のビルの中で生きてきたので本当に感動しましたね。そういう空気のキレイなところに行くと体の感覚が研ぎすまされ、目も耳も鼻も澄んでくるんです。それは都会に戻ってくるととてつもない違和感を覚えるほど」と驚いていた。それもそのはず、エリカは1日のほとんどの時間をぶどう畑で過ごす。「寒かったり、穴掘りの土やスコップが重かったり、体力的には大変なこともあったけれど、その分見晴らしの良さや空気の気持ち良さは格別なもの。そうやって自然からエリカがもらっているものを、私自身も堪能していました」。

国内でありながらどこか異国の地を思わせる、ノスタルジックな空気が漂う不思議なロケーション。そこには三島監督の作家性が色濃く反映されており、大泉は「三島監督は夢をもたせてくれる撮り方をする。監督のフィルターを通して映し出されると、北海道がより美しく描かれるんです」。安藤も、「まさか農夫が『suzuki takayuki』の服を着ているなんて思わないですよね(笑)。イメージは古き良きヨーロッパみたいな感じ。たからそういう服を着ていてもさほど違和感はなく、きちんと日本人の心と感情で言葉を発せられる。それは監督のすごいところだと思いました」と信頼を寄せていた。

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音楽の道をあきらめ故郷の空知に戻ってきたアオ(大泉)は、弟のロク(染谷将太)と営む農場でワイン作りに励むが、なかなか理想の味にたどり着けず悶々としていた。そんな時、ぶどう畑に転がり込んで来た謎の旅人エリカ(安藤)が、兄弟のゆるやかな日常に変化をもたらしていく。

「しあわせのパン」の寡黙で優しい夫役で新たな表情を見せた大泉だが、本作でもこれまでのイメージとは異なる影のある男を演じる。「不器用な男ですよね。人とのコミュニケーションが難しい人。父親と弟、故郷を捨てて音楽の道に進んだわけだけど、不幸なことに道を断たれて戻ってきた。もっと素直に人に心を開ければいいんだけど、どうしても素直になれない部分があるんだろうなと察しました」と役に寄り添った。

明るい人柄で知られる大泉だが、「僕は大学を2年浪人したけれど結局行きたかった大学に行けなかった。これが僕にとっては唯一の挫折。規模こそ違えど、アオの気持ちと似ているものを感じたんです。今振り返れば『大学落ちたくらいで何だ!』って感じだけど、あの時は人生終わったと思った。大学に入ってからも常に周囲の人間を値踏みしていたし、『それなら来なきゃいいのに!』って思われてたけど何とか食らいついてサークルとかに入っていた。そんなことがあったので、アオが人とうまく付き合えないという心境はわからなくもないんです」と共感を明かす。

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「ぶどうのなみだ」とは、厳しい冬を乗り越え、雪解け水をふんだんに吸い上げて春を迎えたぶどうの木が小さな枝から落とすひと雫。それぞれに事情を抱えた登場人物たちもまた、人生という名の大地から吸い上げたものを全身で受け止め、怒ったり笑ったり、時に「ぶどうのなみだ」を流したりして生きていく。

「ひとりの人間としては今ここにいる一代の存在だけど、さまざまな人々の繋がりの中に自分はいるんだなって。私も娘がいる身なので、その受け継がれていく愛情みたいなものを改めて感じました。世の中悲しい事件も多いけれど、僕は親からの愛情に恵まれて育ったので、その愛情をきちんと娘にも受け継いでいけたらなって思います」(大泉)

「私もようやくこの年になって咀嚼(そしゃく)できるようになった感情とか、飲み込めた出来事とか、すごくゆるやかだけど乗り越えてきて道がある。でもそれって実はすごく難しいこと。私自身ゆっくりと一歩を踏み出して、今の毎日、今の自分にたどり着いているんだと思う。人間が大人になって越えていくべき一歩。何かが大きく変わるわけじゃないけど、みんなが一歩を踏み出していく、優しい映画だなって思います」(安藤)

何はともあれ、スクリーンに映し出される空知の雄大な自然にどっぷりと身をまかせてみるのが本作の楽しみ方。大泉は、「とても説明の少ない映画なので、見た人それぞれが感じることを感じてほしいな。そして間違いなく言えることは、とてもお腹がすく映画です(笑)。この映画を見た後に飲むワインはめちゃくちゃおいしい。僕は試写の後に取材でちょうどイタリアンのお店でワインを飲んだのですが、ふだん飲むワインよりめちゃくちゃおいしかった! ここまでワインをおいしくしてくれる映画はほかにないと思います」。

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