劇場公開日 2014年1月25日

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アイム・ソー・エキサイテッド! : インタビュー

2014年1月23日更新
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ハビエル・カマラ&ブランカ・スアレスが語るペドロ・アルモドバルの実像

「ペドロ・アルモドバルの人間性? 彼と仕事をするのは今回で3回目だけど、実は彼の個人的なことは全くと言っていいほど知らないんだ(笑)。だから、これから話すことはあくまで僕の想像だよ」。ハビエル・カマラは愛嬌のある笑みを浮かべてそう語り、隣に座るブランカ・スアレスは静かに同調した。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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カマラは、アルモドバル監督作「トーク・トゥ・ハー」の主人公の看護士と言えば分かる人も多いだろう。続く「バッド・エデュケーション」にも出演し、久々のタッグとなる最新作「アイム・ソー・エキサイテッド!」ではオネエのキャビンアテンダント(CA)に扮し、ハジけた演技を見せている。一方、スペイン映画界の次世代ミューズとして期待を集めるスアレスは、前作「私が、生きる肌」に続く2作目のアルモドバル作品。新旧アルモドバル組と言える2人が語った。

映画の舞台はマドリッド発、メキシコシティ行きの旅客機。オネエのCAにイケメン操縦士、クセのある乗客たちに加え、地上にいる乗客の愛人や元カノまでをも巻き込みながら、ブラックユーモアにあふれたコミカルな物語が展開する。アルモドバルといえば「オール・アバウト・マイ・マザー」をはじめとする女性賛歌の人間ドラマや、近年ではサスペンス色の強い作品の印象が強いが、本作は初期を思わせるブラックコメディ。この“原点回帰”についてカマラはこう語る。

「アルモドバルの初期の作品は、クレイジーで常軌を逸したコメディばかり。スペインの有名な歌手であるアラスカが、自分のパートナーにオシッコをかけたりね(笑)。80年代の作品で社会の常識から離れ、彼がフィルムに焼き付けた強いインパクト――今回の映画で僕が目指したのはまさにその激しさ、あの時代の過激さなんだ」。

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一方のスアレスは、前作「私が、生きる肌」がサスペンスだっただけに、驚きを持ってこの作品を受け止めたようだ。「私がアルモドバルを知ったのは、ここ数年の社会的なテーマを含んだ重厚なドラマやスリラーだったので、彼が作るコメディがどういうものなのか想像がつかなかったの。だから今回、演じながら彼の初期の作品について思いをめぐらせたわ。20年以上前の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』もこういう雰囲気、世界観だったのかもと考えたり、貴重な体験になったわね」。

だが、作風が変わっても「アルモドバルの作品は常にアルモドバルだ」とカマラ。その中心に常に存在するものとして「conflict(葛藤、衝突、矛盾)」を挙げる。「アルモドバルは、奥深くを追求します。そしてそこには必ず、登場人物たちの葛藤や衝突がある。僕が思うに、彼自身は映画を作る際に『これはコメディだ』とか『ドラマだ』なんてジャンルや作風について考えることはないんじゃないかな。作品を見ると、常に彼自身の考えが静かに浮かび上がってくる。そういう監督なんです。実際『バッド・エデュケーション』で僕が演じた役は非常にコミカルだったけど、映画自体は悲劇的な要素を含んでいます。『トーク・トゥ・ハー』は非常にロマンティックな映画ですが、そこにもコミカルな要素はちりばめられています。彼はルールや規範を壊すのが大好きなんです。コメディにも悲劇を混ぜ込み、愛をテーマにしつつセックスばかりを追求したりする。しかも、そこで描かれるセックスのタイプも多様(笑)。偏見にとらわれず、自由に作品をつくり続ける。だからこそ彼は特別な監督なんです」。

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そんなカマラの言葉を引き取り、スアレスはこう続ける。「まさにいま、ハビエルが言ったことは、監督としてのアルモドバルだけでなく、ひとりの人間としてのアルモドバルを表してると思うわ。多次元で多面的。きっと、彼自身にも自分の本質がどういった部分なのか分かってないのね(笑)」。

「あくまで僕の想像だけど」と何度も断りつつ、カマラは楽しそうにアルモドバルの創作の様子を描写する。「きっと、ずっと家に閉じこもって台本やプロットを書き続けているんだよ。その中で、強烈にとらわれて自分が映画として表現したいという衝動に駆られたら、プロデューサーや弟(アグスティン・アルモドバル/製作総指揮)に電話するんだ。『映画にしなくてはいけないものができたぞ!』って(笑)。そこから彼の映画作りのメカニズムが動き出していくんじゃないかな?」

スアレスに関しては、アルモドバル作品への出演をきっかけにしての飛躍と絡め、「ペネロペ・クルスの再来」という声も聞こえてくる。「オール・アバウト・マイ・マザー」の修道女役で注目を集めたペネロペは「ボルベール<帰郷>」で主演を務め、いまやハリウッドを代表する女優へと成長を遂げていった。スアレスは、自身のキャリアをどのように思い描いているのか。

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「人生は長いから、これから先、どうなるか分からないけど、ペネロペと同じような道をたどることができたら素晴らしいわね。私はいろんな人生のチャンスに対し、その都度、向き合い考えていくタイプだと思っているわ。だからいまの時点で、ハリウッドに行きたいとも行きたくないとも思っていなくて、そういうチャンスがやって来たらそのときに最善と思える道を歩んでいけたらと思っているわ」。

最後にひとつ、2人に共通の質問をしてみた。映画の中では、旅客機の機内で個性的な登場人物たちがハチャメチャな騒動、事件を巻き起こしていくが、2人は飛行機の中で思わぬ事件に遭遇したことはあるのだろうか。スアレスは、「私自身は映画のような特別な経験はないけど、実際に働いている人に話を聞くと『事実は小説より奇なり』って言っていたわ(笑)。いつ変なことに遭遇してもおかしくないわね」と笑う。

カマラはCAを演じる上で研修を受け、緊急事態のための訓練まで行なったとか。「そこで知り合った本物のCAの人たちに一緒に飲まないかって誘われたんだけど、そこでその人たちの実際の体験としていろんな話を聞いたよ。残念ながらちょっとここでは言えないような内容だな(笑)」。

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