そこのみにて光輝く インタビュー: 綾野剛、初めて体験した「作品に愛される」ということ

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そこのみにて光輝く

劇場公開日 2014年4月19日
2014年4月17日更新
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綾野剛、初めて体験した「作品に愛される」ということ

いつしか日本映画界になくてはならない存在としてそこにいる、綾野剛。特に今年の活躍はめまぐるしく、1月から3月まではドラマ「S -最後の警官-」と「闇金ウシジマくん Season2」に出演、そして3月以降は毎月のように主演・出演映画──「白ゆき姫殺人事件」「そこのみにて光輝く」「闇金ウシジマくん Part2」「ルパン三世」が立て続けに封切られる。しかも、さまざまな役を巧みに演じるだけでなく、こんな演技もするのかという嬉しい衝撃も届けてくれる。まさに目を離せない俳優のひとりだ。そんな綾野が「いままで関わったどの作品も愛しているけれど、僕たち役者陣が作品に愛された作品」だとひときわの愛を注いで語るのが、主演映画「そこのみにて光輝く」。(取材・文/新谷里映、撮影/根田拓也)

綾野が言う「作品に愛された」とは、一体どういうことなのだろう。「僕がこの映画を愛しているということではなくて、僕たち個人が主観を持っているように映画も主観を持っていて、『そこのみにて光輝く』という映画が僕たちを愛してくれた、出来上がった作品をみてそんなふうに思ったんです。演じているときは客観的な感覚は持っていないし、一心不乱で演じていただけですが、見終わった後に、ああ、この作品に愛されていたんだなと思った。作品のなかで生かされた、ちゃんと生きていたんです」

そういう感情を抱くことは「滅多にない」と言う。作品との出合い方も滅多にないことだったようで、脚本を手にして「3行ほど読んだときに風が吹いた」と、そのときに感じたものを言葉にする。

「3行ほど読んだその段階でこの作品をやろうと思いましたし、この役をやるつもりで、達夫を生きるんだという意志を持って、脚本を読みすすめていきました。その感覚は、理屈じゃないんです。この手の作品はそうそう出てくるものじゃないし、簡単に舞い込んでくるものでもない。いろんなことを含めて希有な作品だと思うんです。共演の池脇千鶴さんは非常にデリケートなシーンをなんのためらいもなく演じていましたけど、池脇さんにそこまで思わせた本──佐藤泰志さんの原作と高田亮さんの脚本が見事に調和して、だからよけいになんだと思います。あとは各部署のメンバーを知って、まったく問題ないなって、現場に入るのが楽しみでした」

原作は「海炭市叙景」と双璧をなす故佐藤泰志さんの最高傑作と言われる長編小説。函館の夏を舞台に、生きる目的を失ってしまった男・達夫(綾野剛)と愛を諦めてしまった女・千夏(池脇千鶴)が出会ったことで生まれる愛の形、家族の形を描いていく。その世界で、達夫を生きるために綾野が撮影前に準備したことは「髭を生やしたこと」、撮影現場で望んだのは「お酒を飲むこと」。主にそれだけだった。

「達夫は、髭なんて剃っているような人じゃないと思ったので、生やしっぱなしでボサボサのままでいました。飲んだくれて昼間にパチンコに行って、また飲んでパチンコして、たまに散歩して、またパチンコして飲んで……毎日飲んでいる。偏った意見かもしれないですが、そういう人が髭なんて気にしているはずがないなと。達夫の過去の仕事もああいう感じなので、自分の見てくれはどうでもいいというか、重要ではないというか、そう考えると整える必要はなかった。あとは背中のアザ。アザは台本には書いていなかったことですが、髭とアザ、準備したのはそれくらいです」

髭を生やしたのは「初めて」だったそう。今作の後に撮影した「白ゆき姫殺人事件」の赤星役でも髭を生やしているが、赤星は「髭を生やしていることが格好いいと思い込んでいる考えの浅いクズのような役」であり、同じ髭でもきっちり整えている。たかが髭、されど髭、そういう準備ができるのは、演じる本人が役を深く理解している証でもあるだろう。けれど、綾野は言う。「使えるものは何でも使おうと思ったんです」と。それは、お酒を身体に入れて現場に臨むということだった。

「撮影が終わるとすぐに飲みに行って、半ば二日酔いで次の日の撮影を迎えるというのをほぼ毎日、撮影期間中の3週間やっていました。もちろん、監督とプロデューサーに許可をもらってです。メイクをしていないので、生っぽさというか毎日表情が変わるのを出したいと思ったし、生で勝負しないととてもじゃないけど表現に苦しむと思ったんです。お酒が入っているという情報はスクリーンには映らないですが、表情にはそれが映る。カメラに映っていることが重要ではなくて、そこにそういう表情でいることが大事なんです。芝居で酔っぱらった風を演じることはできますが、重みが欲しかったんです。お酒の独特の重さ、体が重たくなる感じ、あれはやっぱり達夫を演じるうえで必要だった。達夫として生きるための安定剤のようなものだったのかもしれないです。だから、決して酔っぱらっているわけじゃないんです」

綾野の言葉ひとつひとつから感じるのは、その役を生きたいという切なる思い。その思いはよく伝わってくる。けれど、俳優が役に思いを募らせるほど分からなくなることがある。演じるとはどういうことなのか。役者とは何なのか。

「役作りって頭で考えるものじゃないんですよね。ひとりでモノを作っているわけではないし、共演者の反応が変わればこっちの反応も変わる。役作りって、なんて言うか型に近いもの。型って、相手がどういうことをやってきても自分のやり方を変えないということなので、(演技において)それはマイナスにしかならない。でも、あえて役作りという言葉を使うならば、見た目ぐらいです。あとは現場に行ってから。現場で発揮するために役を固めて行かない、フラットで行く。何にでも反応できるように、感情を持って心を持って対応できるように、そのために“用意しない”というのが僕の役作りなんです」

それは、いくつもの現場で経験を重ね、失敗をしてはその失敗を現場で埋め、一歩一歩ふみしめてきたからこそ生まれた考えであり、「昔は全然そうじゃなかったですからね」と、過去の自分を懐かしむ。

「今のスタイルになったのは、ここ4~5年だと思います。昔はオンオフの切り替えもできなかったし、役の衣裳を持ち帰って家でもその衣裳でいたこともありました。そう考えると、全然違いますね。自分1人の考え方って、たかが知れている。大事なのは、現場が何を求めているのか、監督が何を求めているのか、そもそも作品が何を求めているのか、それを現場でいかにキャッチできるかだと思うんです。そのためにはニュートラルに、フラットにいなければならない。たとえば、自分のキャパが1テラあるとしたら、それを空っぽにして行く。現場でその1テラを埋めるんです。今回の達夫で言う1テラの中身は“反応”。達夫は受けの人、こっちから発信していくことはまずやらないので、相手が放つことをすべて受けることでした」

池脇扮する千夏の反応、菅田将暉演じる拓児の反応、それを受ける達夫──そのすべてに“生々しさ”を感じる。それは、綾野をはじめとする俳優たちが、この作品の中で、現場で、各々の役を生きていたから。だからこそ、愛を捨てて生きているように見える達夫、愛を諦めて生きているように見える千夏、そんなふたりの間に生まれた愛、愛が生まれる瞬間を目にして心が動かされる。達夫を生きたことで、綾野自身はどんな愛を受け止めたのだろう。

「好きだから愛す、家族になりたいから愛す、というよりは、達夫にとっての愛は“愛することを覚悟すること”なのかなと思うんです。でも、それはそんなに難しいことじゃないし、小さな希望と刹那的なものだとも思います」。その愛を感じるラストシーン。達夫と千夏のふたりにそそがれる光は、とても美しい。

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