劇場公開日 2013年3月16日

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「静かなる緊張をもたらすスパイ・サスペンス」シャドー・ダンサー マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5静かなる緊張をもたらすスパイ・サスペンス

2013年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

2011年にエリザベス女王がアイルランドを訪れたことが大ニュースとなった。英国王が同国を訪問したのは実に100年ぶりだというが、日本にいると両国の険悪な関係はピンとこない。時々ほかの映画で未だに根深い敵対意識があることがなんとなく伝わってくるぐらいだ。
1922年の実質的な独立のとき、北部アルスター地方の6州だけがイギリスに留まる。イギリスに残りたい者と独立から取り残された者が遺恨を残したまま混在するのが北アイルランドといえそうだ。
この映画は、そんな政治背景のなか、イギリス本国、北アイルランド政府や王立アリスター警察隊に対するテロ行為を行うようになったIRA(アイルランド共和軍)に身を置くシングルマザー、コレットが敵対するイギリス情報局保安部MI5に捕まったことが発端となって話が進んでいく。

この作品、その政治背景に馴染みがないうえ、タイトルの「シャドー・ダンサー」が意味するところが判りづらく、ポスターの絵柄からも映画の内容が何も伝わってこないという厄介さがある。そのポスターに書かれたコピーが『息子を守るためにスパイになるしかなかった。』だ。私なんかはこれを読むと、お母さんがスパイになるしかないなんて、息子はいったい何をしたんだ?って思ってしまうのだ。
映画を観て、そういうことではないと分かったのだが、いずれにせよこのキャッチコピーが的を得たものとは思えない。

幼い頃に自分がとった行動により弟を死なせてしまった。そのときの父親のコレットに対する無言の怒りの目。古い体質のなか、将来、家長となる男の子が死に、女の子である自分が生き残ってしまったことへの負い目を背負ってきた女が、MI5捜査官のマックの一言「誰も死なない」に懸けた結果が密告者という道だ。もう誰も失いたくない。コレットの思いはそこにある。投獄されて息子と離れ離れになることを回避したいという思いもあるだろうが、そこに問題をすり替えてしまうと結末が弱くなる。
マックのコレットを守ろうとする思いと、コレットがマックに望むものは、明らかにイギリスとアイルランドの関係のようにズレとスレ違いがある。
その結果がラストだ。

とっつきにくいテーマではあるが、観れば静かなる緊張をもたらすスパイ・サスペンスとして見応えがある。
極限状態に置かれたアンドレア・ライズボローの美しさと一途な男クライヴ・オーウェンもいいが、「Xーファイル」のスカリー役でお馴染みのジリアン・アンダーソンがマックの非情な上司を好演。

マスター@だんだん