劇場公開日 2013年10月26日

潔く柔く きよくやわく : インタビュー

2013年10月29日更新
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充実期に入った長澤まさみ「潔く柔く」で得た達成感

大人の女性の落ち着いた雰囲気と、少女のようなあどけなさ。長澤まさみには、その両面が共存している。二律背反の魅力を余すところなく表現したのが、いくえみ綾さんの人気コミックを映画化した「潔く柔く きよくやわく」。幼なじみの事故死の悲しみを背負って生きる社会人と、「まさかと思った」制服姿でその事故が起こる高校時代を見事に演じ分けた。中学生で映画デビューしてから着実にステップアップしている印象の26歳。心の傷を生きる糧に転化させていくラブストーリーで、女優としての幅をさらに広げたようだ。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

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原作は295万部の大ベストセラー。長澤も友人の薦めで愛読していたが、当然、映像化は念頭になかった。

「オムニバス漫画なので切り替わりが飽きないし、登場人物それぞれの、いろんな角度からの思いが見えるところがすごく面白いと思っていました。いくえみ先生の作品はすごく人気があるけれど、ドラマや映画化されていなかったので逆にないのかな。実写化するのが嫌な方なのかなって思っていたんです」

愛着があるだけに、主人公カンナ役でオファーが来た際は、「本当はやりたくなかった」と正直な心情を吐露。だが、出演を決意させたのもカンナのキャラクターの魅力だった。

「プレッシャーも大きいだろうし、自分ができるかなあって思いが勝ってしまいちゅうちょがありました。でも、カンナはすごく前向きな考え方をする女の子で、立ち止まったりせずちゃんと前に進んで歩くんです。自分が読んでいた時もそういうところが好きだなあって思い出して、つらいことがあっても逃げ出さない強さを持ったカンナの勇気に後押しされたような気持ちになりました」

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カンナと、似たような境遇を持つ禄(岡田将生)との関係性が凝縮された脚本にも共感し、新城毅彦監督とも「女性が見ていやらしくならないように」という位置づけであることを確認。だが、高校時代を演じるに当たり、制服という大きなハードルが立ちはだかる。“救いの手”を差し伸べたのが、幼なじみ・ハルタ役で同い年の高良健吾だ。

「2年くらい前にもうやらないかな、無理かなと思っていて、また制服を着る機会がくるとは思ってもみなかったので、初めはすごく抵抗感がありました。でも、高良くんが『いや、大丈夫でしょ』って言ってくれてすごく勇気付けられ、あまり気にしなければいいという思いに達しました」

実際、違和感がないどころか青春の輝き真っただ中の女子高生にしか見えないハツラツとした印象だった。カンナとハルタは団地の隣同士で、“猫のキス”と呼ぶ唇が軽く触れ合う程度のキスをする微妙な関係性。カンナは、ハルタにどのような思いを抱いていたと長澤は推察していたのだろうか。

「15歳は恋に恋している、まだ恋というものを分かっていない年齢だと思って、自分自身も恋に落ちていることに気づいていないし、どういうものか全然分からない。だから男女の愛情ということではなく、家族のようなきょうだいのような、もっと大きな愛情がハルタにはあったのかなって。ハルタを好きという気持ちがどういうものか明確になっていないまま、カンナは大人になっているって思いました」

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カンナとハルタは、同級生の朝美、真山と仲良しグループを形成し高校生活を満喫していたが、カンナが真山と花火大会に行っている間に、ハルタはトラックにはねられ急死。カンナは深い悲しみと罪悪感を抱えたまま大人になってしまう。その間、8年。同じ役とはいえ演じる上で意識の違いはあったはずだ。

「(高校時代は)なるべく若く見えるように。キラキラした青春時代を過ごしたいと思っていました。大人になってからは、自分が抱えてしまったものと向き合わないけれど、ちゃんと前に進んでいるからどこか寂しそうというか、日々生きていかなくちゃいけない現実と向き合っている感じが出たらいいなと思っていました。それが大人っぽくということなのかな、という感じで」

今年2~3月の撮影は高校時代の舞台が広島、ラストシーンの坂道は神戸とロケ地が多岐にわたり移動も相当なものだったようだが、現場の雰囲気がモチベーションを上げることもある。思わぬ“初体験”もあった。

「その場のシチュエーションや雰囲気、風、光などを感じてやっている気がします。だからロケはいいなと思いますね。自分が気づかないところで、その場にすごく寄り添っている感じがします。あと、寒い時期の撮影だったので、初めて(吐く息の白さを消すため)氷を食べました。聞いたことはあったんですけれど、私はやったことがなくて、ちょっとビックリしました(笑)」

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2000年に「東宝シンデレラ」のグランプリを獲得し、同年の映画「クロスファイア」でデビューしているため、映画には特別な思いがあるようだ。とはいえ、ドラマなどと垣根をつくるつもりはなく、あくまで女優として作品にいかに寄与できるかを考えるプロ意識を持つ。

「やっぱり東宝の映画の撮影に入ると、帰ってきたとまでは言わないけれど落ち着きますね。映画はドラマと違って自分と向き合う時間も増えるし、丁寧に演じる時間もある。だからといってドラマでもそうですけれど、作品の質を下げるか下げないかは自分次第だと思います。バジェットが小さい映画だってたくさんあるし、大きい作品に出ているから評価されるわけじゃない。私たちの力を試される場所なんです」

だからこそ、作品を撮り終えた時は常に達成感があるという。部屋で1人のシーンだった「潔く柔く」も同様で、前向きに「ああ、やっと終わったあ」となったそうだ。

「私、何年も切り替えがうまい方だと思っていたんです。でも、ある時に人から『切り替え、下手だよね』と言われて、そうかもと思い納得しました。作品が終わった後は、いい意味でどっと疲れが出るんですよ。入っている間はずーっと作品のことを考えているから、飲みに行ったりもしないし遊ぶ気にならないというか。撮影の合間に休みがあっても、仕事のことを考えちゃうから休みに感じたことがないんです。没頭しちゃうタイプなのかなと思います」

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常に全力投球、演技に集中しているからこそ、作品の完成は「ドキドキしつつ楽しみ」だという。「潔く柔く」についても、満足げな笑顔で振り返った。

「すごく穏やかで、希望に満ちた作品だと思いました。一生向き合っていかなきゃいけないことを抱えている2人だから、終わりがないのかと思いきや、許された感じの希望というか、自分たちがそれを受け入れてちゃんと前が見えているすごくいい作品だなって。見た後に一歩踏み出したくなるような作品になっていると思いました」

経験を積むごとに芽生える自信と余裕。昨年の「モテキ」をはじめ、ドラマ「都市伝説の女」シリーズや「高校入試」など、最近の長澤は多様な顔を見せるようになり、まさに充実期に入っているようだ。ますますの飛躍が楽しみになってきた。

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