劇場公開日 2013年6月15日

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俺はまだ本気出してないだけ : インタビュー

2013年6月11日更新
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堤真一、福田雄一監督を仰天させた無欲の俳優哲学とは?

俳優の堤真一が体型もキャラクターも異なるダメ男を演じた「俺はまだ本気出してないだけ」が、6月15日に全国公開される。メガホンをとったのは、劇団ブラボーカンパニーの座長であり映画監督としてもノリにノッている福田雄一。福田監督からの熱烈なラブコールに応える形で実現した今作が、どのような経緯を経て完成にいたったのか、ふたりが爆笑を交えながら語り尽した。(取材・文・写真/編集部)

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堤は今作で、42歳で会社を突然退職し漫画家を目指す冴えない中年男・大黒シズオを演じた。「このマンガがスゴイ!2009」にランキングされた青野春秋氏の原作では、坊主頭にずんぐりむっくりの体型でダメ男を象徴するビジュアルが印象的だ。そのギャップに加え、劇中では現在の姿以外に17歳(リーゼント)、22歳(ヒッピー風)、32歳(サラリーマン時代)、売れっ子漫画家(妄想の世界)、カミ(妄想の世界)と6役を難なく演じている。

福田監督「僕は堤さんが全て演じるものとして脚本を書いていますから。最初の美術の打ち合わせのときに、『堤さんの髪型をこんな風に!』と言ったら、みんながビックリしたんですよ。『これも堤さんがやるんですか?』みたいな。当たり前じゃないですか!」
 堤「まさに、やらされたって感じですね(笑)。抵抗もなにも、監督本人がぜひと言っていましたから仕方がないじゃないですか」
 福田監督「基本的に、全部『しょうがないなあ』って感じでしたよね(笑)」

映像化に際し、20社以上からのオファーが殺到するなか、福田監督は堤主演にこだわった。その前提で映画化の権利を取りにいき、原作の青野氏からも快諾された。ただ、「スケジュールがすごく先だったんですよ。撮影は2年後っていう話になってしまって。原作サイドからは『早めに撮って』と言われるだろうな……と容易に分かっていたので『だとしたら、他のキャストを考えないといけないんですかねえ。乗らないなあ』と言ったのを覚えています」と福田監督は述懐する。しかし、「青野さんも『堤さんでなければイヤだから、あくまでも堤さんのスケジュールが空くまで待ちます』とメッセージをいただいたんです。何しろ、ありがたかったですね」と穏やかな表情をさらに緩める。

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原作者にそこまで望まれるのは役者冥利に尽きるが、一方でプレッシャーを全く感じなかったといえば嘘になる。堤は、撮影中に現場を見学に訪れた青野氏と挨拶したそうで「映画が完成してから試写でもお会いしました。青野さんも原作通りにやるなんてイヤだったそうで、僕がやったことで漫画とは違うテイストになってすごく良かったですとおっしゃってくださいましたから、ホッとしましたね」と話す。福田監督は、「堤さんがシズオのもっているものの芯の部分を絶対に外さず、ちょっと違ったものとしてアウトプットしてくれているから、展開を把握している自分が見ても面白いともおっしゃっていましたよ」と補足する。

芸達者な堤ならではの役作りといえるが、「犬死にせしもの」(1986)での銀幕デビューから27年が経過し、現在では映画出演は30本を数える。

堤「そんなにやっています?」
 福田監督「映像、嫌いって言っていたじゃないですか!」
 堤「嫌いなんじゃなくて、苦手!」
 福田監督「あ、そうだ。でも、苦手ってずっと言っていたのに(笑)、30本って……」

驚くべきことに、堤は人前に出ることが大の苦手だという。「もともと坂東玉三郎さんの舞台で黒子をやっていたので、まさか自分が俳優になるとは思ってもみませんでしたね。『こんな世界があったんだ』という新鮮な思いが芽生えて、エキストラくらいの立ち位置でもいいから関わっていきたいと考えるようになったんです。それが少しずつ舞台でセリフを与えられるようになってきて、すごくイヤで。『俺は表に出たくないんや』と(笑)」。この時点で、福田監督の爆笑が止まらなくなる。さらに、「演劇的な発声ってあるじゃないですか。中学とか高校のときに、演劇部の発声練習を『バカじゃないの?』と思っていたんです。それを自分が人前に出てやることになったわけですから。いまだにどこかにありますよ。だから、寄りで顔なんかを撮られたりすると、ガクガク震えるんですよ。もう恥ずかしくて、恥ずかしくて」と告白が終わる頃には、福田監督の笑い声は最高潮に達することになる。

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ふたりは、シス・カンパニーの舞台「バンデラスと憂鬱な珈琲」でタッグを組んだことがあるだけに、気心が知れた間柄といえる。堤に福田監督の演出について聞くと、「監督じゃないですからね(笑)。芝居はちゃんとつけますけれど、あとは遊んでいますから。カット割もやらないし(笑)」とバッサリ。手を叩いて笑う福田監督は、「撮影とか照明のスタッフによく言われるんですが、『我々の仕事は監督の指示に従うものなんだけど、福田監督と仕事をして久しぶりに、俺はこの仕事に就きたくて始めたんだと気づかされました』と。『こいつはダメだから、俺が考えなきゃいけない』と思うんでしょうね。僕の組は毎回、何もしない監督を何とかしなくちゃいけないと、皆が結束して頑張るんですよ」と謙遜してみせた。

インタビューで、これほどまでに自然体の空気を作り出すことこそが、福田監督の手腕といえるのかもしれない。本編で福田ワールドにどっぷりと浸かった堤が、嬉々とした表情でシズオになりきっていることからも、さらなるタッグを期待してしまうのは必然といえる。しかし、このふたりの会話はどこまでも軽妙で、いともたやすくこちらの質問を煙に巻いてしまう。

堤「今まで役者を続けてこられたのは、負けず嫌いな部分があると思う。『ダメだな、こいつ』と思われたくないから頑張れた。でもね、その頑張る気持ちが最近はあんまりないんですよ(笑)」
 福田監督「楽しいことだけやって生きていきたい欲が強くなってきたって言っていましたもんね」
 堤「田舎暮らしとかしてみたいですよねえ」
 福田監督「まあ、業界がそうはさせませんけどね」

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