夏の嵐(1956)

劇場公開日:

解説

芥川賞候補にあがった、女子大生深井迪子の問題小説の映画化である。脚色は「処刑の部屋」の長谷部慶次、監督は「狂った果実(1956)」の中平康、撮影担当は「しあわせはどこに」の横山実。主な出演者は「花の運河」の小園蓉子、「わが町」の三橋達也、「逆光線」の津川雅彦、北原三枝、その他汐見洋、北林谷栄、清水将夫、金子信雄など。

1956年製作/86分/日本
配給:日活
劇場公開日:1956年10月1日

ストーリー

その夜、浅井家では長姉妙子の婚約者秋元が訪ねて来るというので一騒動。およそ世俗的で平凡な娘妙子も小うるさい母親みつの忠言で着飾り、弟の明もいやいや正装した。だが女子大卒後、葵中学の英語教師をしている次女稜子は、格式張った家族紹介のとき秋元を一目見て運命の不可解さに驚く。二年前、友人とキャンプに行った稜子は夜、沼の畔りで口笛を吹く男の傲慢な眼差しに、一瞬、彼を征服したい衝動にかられ抱擁と接吻を重ねた末、名も告げず別れた。その男こそ秋元だったのである。その夜、帰りを待伏せた稜子に彼は狼狽しながら「結婚という平凡な人生は自分にとって死と同じだ。死の代りに結婚を選んだ迄だ」という。稜子は彼が姉との結婚で悔いなく生きて見せると断言してから数日後、妙子の不在中訪れた秋元に逢引きを約束させた。約束の日、遊覧船の甲板で楽隊の演奏で踊る二人の顔は何故かゆがんでいた。帰途、外国人墓地を通り掛った稜子は突然「理性を試しましょうか」と暗闇に身を横たえた。彼の全部を得ることで彼への執着を棄てたかったのだ。その頃、浅井家では二人の関係を知らず、牧師と結婚の日取りまで決めたみつが、秋元のアイマイな態度にいら立っていた。そこに憔悴しきった顔で戻って来た稜子。戸籍上は弟だが実は従弟の明は、二人の関係に薄々勘づき、嫉妬めいた気持と同情の念から彼女を慰めようとした。しかし稜子はますます自虐と自己嫌悪に落ち込んで行くだけだった。ある日、稜子の処に二枚目の城戸教師が来て、PTA会長の息子で大門という生徒を撲ったのが問題になってるが僕は会長と懇意だから、という。稜子は自分から彼の誘惑にのり、翌朝ホテルを抜け出て秋元に報告。彼は意外にも興奮して稜子の行為をなじる。明はその夜、稜子の腕に抱かれたが、無邪気な誇りで自らの人生観を肯定している彼は、肉体を与えても僕の純潔は傷つかないと平然としている。板挟みに苦しむ秋元は三人姉弟と海岸行きを約束した日曜までに自分を清算しようと考え、ある日教会の礼拝堂で結婚式の予行演習をやり、妙子を喜ばせた。当日、嵐が近づくので海岸に人の姿はなかった。砂地の午睡を俄かの雷雨で破られた姉弟は秋元がいないのに気づいた。彼は浮きつ沈みつ沖へと泳ぎ進んでいた。「卑怯だわ!」と叫ぶなり怒濤の中へ身を躍らせた稜子は波にもまれて沖へと流され、いつか姿を没していた。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

映画レビュー

4.0力強い作品

2021年2月10日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 イタリア統一のため快進撃が続くガリバルディを信じ、ロベルトは流刑という扱いに甘んじる。伯爵夫人は彼との別れを惜しむが、原因となったフランツ・マーラー中尉に再会しよろめいてしまうのだ。ロベルトを助けるには夫ではだめだ。なんとかオーストリア将校に頼まねばと恥をしのんで将校たちの宿舎へ向かうリビア。そんなことは口実で中尉に会いたいがための行為。そこから深く恋に落ちる二人だった・・・

 ストーリーはアリダ・ヴァリの語りが中心となって進められる。この声がなんとも艶っぽく、いかにも恋に落ちた中年女といった雰囲気を醸し出していた。戦争も始まり、ベネチアと敵対するオーストリアとの間と同じく、彼ら不倫の恋にも溝が入る。貴族だから金もある。ずっと一緒に過ごしていたい。戦争で死なせたくないという思いから、金で軍医を買収して兵役から逃れさせる方法を思いついたのだ。

 それでも戦闘態勢にあった町が2人を引き離し、命からがら会いに行き、再会できたと思ったら、逃亡兵扱いされたフランツが彼女の渡した金で娼婦までも買っていたのだ。荒んだ生活、英雄とも呼ばれなくなった身分、自暴自棄となった心から、彼女を詰るばかりのフランツ。やがて彼女は密告により彼を逮捕させようとするのです。

 ストーリーもしっかりしていて、不倫物語ながら激化する戦争を舞台に力強く描いてある。無謀な恋に溺れる姿もさることながら、臆病な兵士になると大変だという理不尽な世界を見事に描き、虚しい銃殺のラストシーンで胸に響いてくる作品。下手をすると徴兵義務を正当化するよために利用されかねない内容なので、そこだけが気になった・・・

コメントする (0件)
共感した! 0件)
kossy